「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第451回
そばに惹かれて 旧東海道めぐり(その2)

ほぼ満席の北品川は「しながわ 翁」で
もりをスルスルッといただいたあと、
腹に余裕を残しつつ、旧東海道を真南に進路を取る。
途中、何回か訪れている定食の「北一食堂」や
1度だけおジャマして以来、
何年もごぶさたしている江戸前天ぷらの
「三浦屋」の店先に瞬時たたずみ、
その健在ぶりを目で確かめたりもした。
もっとも「北一食堂」は定休日。
浮世絵調の絵の描かれたシャッターが閉ざされていた。

春は名のみの風の冷たさに、日陰を歩くとまだ肌寒い。
気分が爽快なのはこの道筋が大好きだからだ。
鮫洲をすぎて立会川に差し掛かる頃、
風格のある日本家屋が右手に見えてくる。
創業150年のそば店「吉田家」である。

ちょうど立て込む時間で、ここもいっぱいだった。
日本そば屋は食いっぱぐれがないというが
本当にその通りだと思う。
どんなに廃れ寂れた商店街の一角にあろうとも
日本そば屋がつぶれたというハナシはついぞ聞かない。
もっとも「吉田家」は界隈に名声のとどろく名店、
傾く、つぶれるなんて言葉はこの店の辞書にあるまい。

テーブルに空席が見つからず、
小上がりに上がると、立派なおひな様のお出迎え。
そうであった、桃の節句は明後日なのだった。
窓外の小池に錦鯉が泳ぐそば屋での風雅なひととき。
品書きの冷やしおかめに興味を覚えたものの、
やはりオーソドックスに、もり(850円)でいく。

添えられた薬味は本わさびとさらしねぎ。
細め平打ちのそばはモチッとした歯ざわりが信条。
好みは分かれようが、手打ちパスタのようで好きだ。
もりつゆもほんのりと甘みを含み、上々の仕上がり。
ここ十数年、高級感と清潔感を兼ね備えた
新しいタイプのそば店には、かけつゆはともかく、
もりつゆから一切の甘みを排除してしまう店が多い。
J.C.は常々、そこに不満を抱いている。
何事も辛口ならばよいというほど、
世の中は単純なものではない。

「吉田家」のあとは大きく右に旋回。
第一京浜を横断して、北北西に進路を取る。
目指すは大井町線・大井町の高架下に位置する「権正」。
季節の変わりそばと季節の天ぷらが名代の佳店だ。
この店に到着して初めて、
我慢にガマンを重ねてきた冷たいビールを所望する。
登場したのはキリンラガーの中瓶。
かなりの距離をスタコラと歩いてきたのだ、
何ものにも代えがたいビールにのどを鳴らす。

珍しい銀宝の天ぷらを味わったあとは
変わりそばの伊予柑切り(1000円)。
不自然なほど鮮やかな色合いに一瞬たじろいだ。
橙(だいだい)色というより山吹色と呼ぶにふさわしい。
サフランを打ち込んだリングイネのようでもある。
その日の3種のそばでは伊予柑切りのコシが一番強い。
薬味の本わさびと大根おろしは不要なくらいだ。

日本そばなら2軒ハシゴしてもさほどこたえぬが、
3軒ともなると、さすがにお腹が苦しい。
それよりも、そば3枚で締めて2580円也。
これにビールと銀宝の天ぷらが加わって
昼間っからトンだ散財をしてしまった。
うなぎ屋でうな重の(上)を奮発し、
一杯やったと思えば、それで済むんだけれど・・・。

「吉田家」
 東京都品川区東大井2-15-13
 03-3763-5903

「権正」
 東京都品川区大井1-1-6
 03-3776-8580

 
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2008年3月25日(火)

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