「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第484回
何だ神田の多町大通り(その2)

以前はやっちゃ場のあった神田多町。
その多町の人気とんかつ店「勝漫」の、
言わば“花板”が店を辞め、
すぐ近所で同じとんかつ店「やまいち」を
開いたのだから尋常ではない。
やくざの世界ならば、喧嘩(でいり)になるところだ。

前著「古き良き東京を食べる」の取材で
新しい経営となった「勝漫」は試した。
そこでずっと行く機会に恵まれなかった
「とんかつ やまいち」を遅ればせながら訪れた。
実際に両者が敵対している噂は聞かないが、
なんだかこういうのは時代劇みたいで楽しい。
同じ宿場町でイガミ合う2つの一家を
それぞれ表敬訪問するようでウキウキする。

勘の鋭い読者ならここでピンとくるハズ。
そうです、このシチュエーションは
黒澤明の名作「用心棒」と一緒ですね。
J.C.は三船敏郎扮するところの桑畑三十郎に
なり切った気分で出掛けて行ったのでした。
(バカだね、まったく)

「とんかつ やまいち」は1階にありながら
入り口が少々奥まって路面店とは言いがたい。
店内はカウンターが4席。
2人掛けの小さなテーブルが1卓。
そしてこんなところまで瓜二つ、
「勝漫」と同様の相席用大テーブルが8人掛け。
計14名のキャパシティであった。

1辺に2人ずつ座る大テーブルの一角に落ち着く。
1辺に2人だから、どこへ座ろうと角席だが
これが狭苦しいことこの上ない。
角をはさんでカドカドとなった見知らぬ人と
角(つの)ならぬ、膝を突き合わせて食べるのだ。
閉口したのはたまたま横に座った他人様が
食事中にやたらめったら咳き込むこと。
軽く手を当ててくれてはいるが
咳き込む正面にはJ.C.のとんかつがある悲劇的配置。
吉幾三じゃないが「オリャ、こんな店いやだ!」

ロースかつを頼むつもりだったが
メニューを見て惹かれてしまい、
浮気した結果、実際に頼んだのは
合わせかつ定食なる柔道の合わせ技のような一皿。
但し書きには小さめのロースかつと
一口ヒレかつの盛合わせだという。
実はJ.C.はこういう1粒で2度美味しい皿には弱い。
これなら飽きもこないし、得した気分にもなれる。

咳き込む隣人には目をつぶり、
左手で自分の皿をプロテクトしつつ、
居心地の悪さを感じながらも箸を付ける。
すると、ヒレかつは肉汁が飛んでしまってパサパサ。
ロースもまたジューシーと呼ぶにはほど遠い。
何もこんなに深く揚げずともよいものを。

加えて揚げ油に配合された胡麻油がとんかつに不向き。
卓上のソースのシナモン香にも違和感が残った。
どうしてこの店のとんかつが人気なのか判らん。
1粒で2度美味しい思いをするつもりが
二兎を追うもの一兎を得ずの結末を招き、
おのれの不明を恥じるばかりのJ.C.であった。


【本日の店舗紹介】
「とんかつ やまいち」
 東京都千代田区須田町1-8-4

 
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2008年5月9日(金)

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