「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第486回
雀聖が食した鰻重

直木賞作家・色川武大、またの名は阿佐田哲也。
昔、阿佐田哲也のペンネームで執筆された
「麻雀放浪記」をむさぼるように読んだ記憶がある。
繰るページに雀牌が並んでいて実に新鮮だった。
「麻雀放浪記」の主人公“坊や哲”の足元にも及ばぬが
J.C.も20代前半の血気盛んな時期に
短いながらも麻雀で食っていた時代があった。

スウェーデンのストックホルムに住んでいた頃のこと。
たかだか1年足らずだったが、大いにツキに恵まれて
その間にアガった「地和」と「緑一色」は
長い雀暦の中で生涯1度だけの役満手となった。
この先、あまり卓を囲む機会もなさそうだし、
「大三元」や「四暗刻」はともかく、
「地和」なんぞをアガろうものなら
小説の“出目徳”さながらに心筋梗塞で
あの世に直行することになりそうだ。

享年61歳にして亡くなった阿佐田哲也だが
生前はありとあらゆる場所に出没して
心ゆくまで打ちまくっている。
中でも長門裕之・南田洋子夫妻の邸宅には
ひっきりなしに出入りしたようだ。
お手伝いさんたちが夜中も交代で起きていて
面倒をみてくれる長門家は居心地がよく、
1度訪れたら2晩くらいは平気で徹夜したらしい。
もっとも打ち手のほうも入れ替わって
仮眠を取りながらのプレイだから
どうにかこうにか、体力を保てるのである。

長時間に及ぶ闘いの最中に摂取する飲食物の
ヴァラエティと物量には驚いた。
どこかで読んだものを思い出すがままに
列挙してみると
 ミックスサンド・野菜サラダ・シュークリーム・
 フレッシュオレンジジュース・コーヒー・鰻重・
 野菜スープ・コーヒー・とろろそば・イチゴ・
 アイスクリーム・クリームコロッケ・生野菜・
 コーヒー・鰻重・キーウィーゼリー・コーヒー
 生ジュース  (順不同)

ざっとこんな調子で栄養バランスも悪くない。

注目に値するのは鰻重を2度食べていること。
うまくて高級感があって精力もつき、
オマケに食べやすいときている。
ギャンブル中の食事に都合のよい食べものは
昔から本邦では鉄火巻き、
西洋ではサンドイッチと、相場が決まっている。
加えて鰻重・炒飯・カレーライスあたりも賭場向きだ。

当時、長門家御用達だったうなぎ屋が今も暖簾を掲げている。
小田急線・経堂駅に近いその店は「寿恵川(すえかわ)」。
高円寺にも同名の姉妹店がある老舗だ。
うなぎは山の手よりも下町のレベルがずっと高いものの、
雀聖がお替わりまでしたのだから
一訪の価値ありと踏んで、ある夜出向いてみた。

鳥わさでビールの中瓶を1本飲み終える頃、
鰻重の梅(1780円)が運ばれた。
肝吸いは竹より上でないと付かない。
重箱の蓋を開けると、小ぶりのうなぎが丸一尾、
ごはんの上に鎮座ましましている。
甘めのタレがヤワめのごはんに掛かりすぎ、
キレ味を鈍らせる結果を招いたのは残念。
香ばしさの欠落は炭火で焼いていないためか?
もっとも博打を打っている間はクイモンの味なんざ
どうでもいいものかもしれない。


【本日の店舗紹介】
「寿恵川」
 東京都世田谷区宮坂3-12-16
 03-3429-7375

 
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2008年5月13日(火)

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