「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第493回
安吾・カレーライス事件(その2)

「東京紅團」のHP1のおかげで
檀一雄宅における坂口安吾のライスカレー事件の
真相をつかむことができた。
100人前の注文に応じた2軒の食堂を
散歩の途中に偶然見つけたのも何かの縁だろう。

それにしても残念なのはこのことである。
この春にマイコミ新書から
文豪の味を食べる」を上梓したばかりだが
坂口安吾と檀一雄の2人も取り上げた。
行きつけた店を安吾の稿ではお好み焼き「染太郎」、
檀の稿ではどぜう「飯田屋」と
ともに浅草からピックアップしたのだった。
もしもほんの数ヶ月前に
石神井の2軒の食堂のことを知りえていたら
ご両人のいずれかの稿で
どちらかのライスカレーにご登場願ったに相違ない。
いや種は2軒あるのだから
1軒ずつ割り振ったかもしれない。

こうなるとすぐにでも飛んで行って
そのライスカレーを食べ比べてみたくなる。
発見の4日後、小雨まじりの石神井公園に
再びJ.C.の姿を見ることができた。
改札口を出たらまずは手前の「辰巳軒」に直行する。
店内には中年から初老にかけての男性単身客が3人。
推察するに4人目のJ.C.が一番若い。
即刻、600円のカレーライスをお願いする。
現在では2軒ともにメニューの表記は
ライスカレーではなく、カレーライス。

5分ほどで運ばれたカレーライスには
真っ赤な福神漬けが添えられている。
見た目通りに昔ながらの食堂の味。
辛くはないが、ささやかなパンチが感じられる。
初老の夫婦二人きりの切り盛りで
このお二人の客あしらいが丁寧にして温かい。
当然のことに安吾の頃から代替わりしていようが
古き良き人情に満ちている。

この日は夕方から高校の後輩にあたる
松村雄基の芝居を新国立劇場に観に行く予定。
芝居がハネたあとの雄基を囲んでの会食は
21時近くのスタートになるだろうから
それまで腹を持たすためには
もう1皿のカレーライスなど朝飯前だ。
もっともいつもと同じ時間の夕食だとしても
1軒で終わらせるつもりなど毛頭ない。
しかも食べ比べのために遠征してきたのだ。

2軒目の「ほかり食堂」へ。
「辰巳軒」よりテーブル同士の間隔がゆったりとしている。
板の間の小上がりにも数卓のテーブルが配置されていた。
ここのカレーライスは500円で「辰巳軒」より100円安い。
事件のときにも価格差があったのだろうか。

やはり赤い福神漬けを従えた素朴なルックスのカレーは
具がルウにとけ込んで原形をとどめていない。
スプーンですくうと、サラサラとした感じだ。
味のほうはかなりまろやかでパンチ力に乏しい。
柔らかめのライスもちと残念で
カレー対決は「辰巳軒」に軍配が挙がった。
ただし、接客に関しては「ほかり食堂」も好印象。
加えて店内の雰囲気はこちらのほうに軍配だ。


【本日の店舗紹介】
「辰巳軒」
 東京都練馬区石神井3-17-20
 03-3996-0425

「ほかり食堂」
 東京都練馬区石神井3-16-18
 03-3996-4672

1 http://www.tokyo-kurenaidan.com

 
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2008年5月22日(木)

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