第507回
納得のミシュラン二つ星(その2)
目白の和食店「和幸」で
明石の真鯛と壱岐の本まぐろに舌鼓。
書き忘れたがそれぞれに別々の醤油が供された。
まぐろには通常の醤油だが
鯛には薄口醤油・一番出汁・
橙(だいだい)の果汁を合わせたもの。
白身の王者と青背の雄では
醤油にも相性の良し悪しがあってしかるべき、
料理人の見識というほかはない。
お椀は、はまぐり真丈。
これもかなりのボリュームだ。
小ぶりのハンバーグほどのサイズがある。
すり身状の真丈とサイの目状の身が
対照的な食感の妙を演じてくれ、
京料理では出会うことのできない豪快さだ。
八寸の陣容は、姫さざえ煮・わかさぎ素焼き・
あぶりこのこ・さより寿司・ふきのとう味噌・
こしあぶらの味噌漬けなどなど。
いずれもしっかりとした味付けで
これには日本酒がほしくなり、
お願いすると、滋賀の美富久が運ばれた。
ツイ、ツイーッと一献。
う〜ん、いやはや、たまりませんな。
続いては富山産のさくら鱒の塩焼きを木ノ芽酢で。
桜の時期のさくら鱒は美味の極み。
ほっくりとした身肉に上品なうま味をたたえて
これを食べるとしばらくの間、
通常のサケ・マス類には食指が動かない。
さくら鱒は淡水魚の山女魚(やまめ)と同種のサカナ。
陸封型が山女魚で、降海型がさくら鱒になる。
富山県名物でおなじみの鱒寿司には
このさくら鱒が使われるのが一般的だ。
炊き合わせは、平目の真子・生湯葉・ふき・新竹の子。
緑鮮やかな木ノ芽があしらわれている。
さすがに季節感の薄い里芋だのにんじんだの
庶民の台所のレギュラー組が顔を出すことはない。
それにしても非の打ち所のないラインナップではないか。
そして当夜のベストが花びら茸を添えた胡麻豆腐。
J.C.は胡麻の濃厚なコク味があまり好きではない。
胡麻油は好きなのだが
しゃぶしゃぶの胡麻ダレなどは
ほとんど使うことがないほどだ。
ところが「和幸」の胡麻豆腐は
胡麻の香ばしさとかつお出汁が
相乗効果を発揮しているスグレモノ。
ここにも京風とは一線を画する力強さを感じた。
お次の酢の物は酢を控えた繊細なもの。
赤貝&北寄貝との兼ね合いを考慮したのだろうが
もうちょいとガツンときてもよかった。
締めのごはんは柔らかめの炊き上がり
うるいと生麩のお椀は西京味噌仕立てだ。
べったら漬けに江戸の匂いを残している。
かくしてミシュラン二つ星に納得しながらの
お勘定はお一人様3万円。
そうちょくちょくは来れないなと思いつつ、
店主と若女将に見送られて夜の街へ。
Iアサンと協議の結果、
神楽坂の「新富寿司」に廻ることにする。
久々に名物婆ちゃんと
ビールを酌み交わそうという寸法である。
【本日の店舗紹介】
「和幸」
東京都豊島区目白2-16-3
03-3982-2251
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