第508回
絶望のばらちらし
自ら墓穴を掘ってしまった。
ときどきこんなポカをやる。
昼間、ふらりと入った鮨屋にばらちらしを見つけると
ついオーダーしてしまう悪癖があるのだが
今回もその典型的なケースであった。
ある土曜日は午前11時の新橋演舞場。
前夜、というより当日の明け方まで
モノを書いていたので睡眠不足。
寝坊はしたものの、何とか開演には間に合った。
片岡仁左衛門と波乃久里子の「婦系図」である。
昨年は同じ出し物を風間杜夫と久里子で観た。
盟友のK石クンが後援会長に君臨する
石原舞子も出演していて、彼女の応援も兼ねている。
新派の世界を知ってからかれこれ2年になろうか。
水谷八重子と波乃久里子の後継者のことを思うと、
新派の行く末が少々心配になってくる。
第一幕の幕が引かれて休憩。
朝から飲み食いしていないので空腹感に見舞われた。
演舞場の向かいの「喫茶エリカ」で
サンドイッチでもと思いきや、
もの足りないような気がして洋食の「大山」へ。
オムライスでもというアイデアだったが
あいにく「大山」は休業していた。
ランチ難民となって界隈をウロウロ。
ほどなく見つけたのが鮨店の「福つち」。
未踏ながら前は何度も通過しているから
存在はずっと前から承知していた。
店先のメニューボードに目をやると、
ありました、ありました、ばらちらしが金千円也。
生のちらしやにぎりの場合、ネタが悪いとお手上げ。
それがばらちらしならば、リスクが大きく軽減される。
時間がないことでもあるし、即入店。
カウンターで待つこと5分。
出来上がったそれはどうも様子がおかしいぞ。
桶の表面をおおうのは
黄色い玉子焼きと身元不明のおサカナ。
見るからに出来合いのだし巻きと
皮目をあぶられた鰆(さわら)みたいなのが
これでもかと盛られているではないか。
あとはきゅうりの細かいのと、いくらがパラパラ。
まぐろの赤身も申し訳程度に散っている。
何だかイヤぁ〜な予感がしてきた。
外れりゃいいのに、その予感はズバリ的中。
大量の鰆もどきがベンな匂いを放っている。
生々しいというより生臭いというんだな、これは。
これをばらちらしと呼ぶのは無茶だろう。
粗悪にして廉価な輸入魚が具材の8割を占め、
バランスの悪さ、ここに極まれり。
付属品の茶碗蒸しは上げ底になって他店の半分の量。
量はともかく中の具がこともあろうにトウモロコシ。
おまけに菜っ葉ばかりの小さなサラダは
小鳥のエサのほうがまだ旨そうだ。
こんな駄品の数々はないほうがよい。
鰆もどきには箸を付けられず、そのすべてを残す。
はたして客からの絶望のメッセージが
鮨職人に伝わるものかしら・・・。
以前にもあったけれど、築地でばらちらしを食うと
まったくもって、ロクなことがない。
あ〜ぁ、またやっちまったヨ!
【本日の店舗紹介】
「福つち」
東京都中央区銀座6-17-2
03-3543-2921
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