「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第527回
マンハッタンの三つ星 
= れすとらん しったかぶり =
あの頃のニューヨークシリーズ(1)

1993年から1997年までの5年間、
すでに廃刊となった「読売アメリカ」の
毎週金曜日に連載していた
「J.C.オカザワの れすとらん しったかぶり」を
あの頃のニューヨークシリーズと称して
ときどきお送りしていきたい。
復刻版としてほとんど当時のコラム記事に
手を加えず、そのまま再現している。
タイトルもサブタイトルも変えていない。
今日はその第1回、題して「マンハッタンの三つ星」。

常夏のシンガポールから
このニューヨークに赴任してはや6年、
為替ブローカーという商売柄もあって
ランチにディナーにマンハッタンを食べ続けている。
訪れた店は800軒を下るまい。
このコラムではこうして出会った数々の
店や料理について書き綴っていきたい。
ひとりよがりの知ったかぶりに
しばらくの間、おつき合い願えれば幸せである。

最近、ニューヨークで市販されている
何冊かのレストランガイドを見るにつけ、
気になって仕方がないのはフランス料理店と
ステーキハウスへの偏重ぶりである。
アメリカ人の祖国に対する愛国心と
フランスに対するコンプレックスが
同居しているようで興味深いが何か釈然としない。

水準の高いイタリア料理は
不当な低評価を受けているし、
中華料理は砂糖と油と調味料を
たっぷり使ったシロモノがもてはやされる始末。
日本料理に至っては採点の基準がメチャクチャで
まったく信用がおけない。困ったものだ。

さてニューヨーカーあこがれのフレンチレストランだが
仮に花のパリからミシュランの調査員たちがやって来て
マンハッタン市内を食べ歩いたとしよう。
はたして三つ星に輝く店が生まれるだろうか?
おそらく二つ星が何軒かで、三つは皆無ではなかろうか。
本場との力量の差は埋まるべくもない。

それでも近い将来、三つ星に値する店が
生まれないとも限らない。
その最右翼が「Bouley(ブーレイ)」。
数年前に忽然と現れたこの店は
斬新な手法でこの街の風雲児となった。
俗に言うヌーヴェルとは異なる、
軽いステップを踏む重量級ボクサーの風格を備える。

他店ではあまり扱わないアジやイワシなど
青背のサカナのメニューが非凡で
ポルトガル風イワシのグリルには
素朴な塩焼きからは得られない
未知のうまみが凝縮されていた。
鳩の胸肉とフォワグラをサヴォイキャベツで包み、
ホロホロ鳥のローストには季節のリゾットを添える。

店のあちらこちらに無造作に置かれた
バスケットから漂うリンゴたちの甘い匂い。
陽射しの差し込む窓辺を彩る美しい花々。
この空間は恋人たちのためにある。
彼らのためにも殿方同士の無粋な接待は避けたい。

「Bouley」
 165 Duane St から120 W.Broadwayに移転

 
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2008年7月9日(水)

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