「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第543回
こんな欧風カレーは初めてだ(その1)

日曜日の昼下がり、音楽会のために荻窪へ。
以前はラーメンの街だった荻窪も
近頃はその様相を変えて
すでにラーメンタウンのイメージは
払拭されたようだ。

せっかくやって来たのだから
この街でランチを食べたておきたい。
さて何にするべぇかと思いをめぐらせる。
暑い日に熱いラーメンをすすって
汗はかきたくはない。

ふと、カレー屋「トマト」のことが脳裏をよぎった。
知り合いにA耶という娘がいる。
彼女は文豪・井伏鱒二のお孫さん。
井伏はずっと荻窪に住み続けた作家である。
つい最近、ひょんなことから
「トマト」がA耶のお気に入りと知った。
彼女は祖母系の孫で、荻窪と直接の縁はないのだが
このカレー屋のために遠征してくるのだという。

荻窪のカレー店は「トマト」と「すぱいす」が双璧。
「すぱいす」には行ったが「トマト」は未訪だ。
この有名店を避けていた理由はただ一つ、
欧風カレーが嫌いだからである。
シツッコいカレーを食べると
あとで必ず、胸ヤケに苦しむことになる。
それがたまらなくイヤなのだ。
カレーはインド風のスパイシーでサラサラなのがいい。
欧風のもったりしたヤツはできるだけ避けたい。

と思ってはみたものの、
「オカザワさん、ぜひ行ってみてくださいネ」――
文豪の孫娘から推挙の言葉をもらったことだし、
これを機会に懸案の1軒を
ツブしておこうという気になったのだった。
それに加えてこの暑さ。
カレーは暑気払いにもお誂え向きだしネ。

目的地に到着したのは12時半過ぎ。
店の前にご夫婦と見られる二人連れがたたずんでいる。
何とも気さくな奥さんで
「お一人ならすぐ座れるかもしれませんよ」
親切なお言葉に意を強くしてドアを開けると
テーブルは満卓ながら
3席あるカウンターの1つが空いている。
やれやれと一息ついたのは早とちり。
接客担当のマダムに満席を告げられた。
どうやらその1席はまったく使わないか、
3人組専用なのかもしれない。

表に出て先ほどの夫婦のうしろに並ぶ。
「あらあら、残念でした」
あくまでもヒトの好い奥さんだ。
そのうちに客がパラパラと来店して
6人ほどの列ができた。
といってもラーメンの人気店のように
キッチリと間を空けずに並ぶのではない。
みんなで店先にたむろしているような感じだ。
その間も太陽は客たちのうなじを
容赦なく照りつけている。

        =つづく=

 
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2008年7月31日(木)

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