「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第547回
ステーキハウスよさようなら
=れすとらん しったかぶり=
あの頃のニューヨークシリーズ(2)

およそ15年ほど前の「読売アメリカ」の連載記事から
ピックアップした第2弾であります。

ニューヨークで活躍するジャパニーズ・ビジネスマン。
戦場に家庭に悩みのタネは尽きない。
「アナタ、空港へはワタシが迎えに行くけど、
 今夜の食事は素敵なお店、お願いよ。
 お義母さんって気難しいんだから」
とカミさんがこぼす。

「○○君、明日の××氏の接待な、
 いいトコ取っとけよ。
 本社によると、うるせぇ人らしいんだわ。
 やりきれんな、ジッサイ」
と上司もボヤく。

厄介なのはこのことである。アタマは痛いし、気も重い。
思案の末に落ち着くところがステーキハウス。
敵にとっては初めてのニューヨーク。
アメリカ風にもてなしたいが
ハンバーガーを食わせるわけにもゆくまい。
結局、あまりうまいとも思わぬステーキ屋に
またぞろ出掛けて行く羽目に。
挙句の果てにお客の口をついて出る言葉は
巨大な肉塊への驚きばかりで
お世辞にも賞賛の声は上がらない。
今こそステーキハウスに別れを告げるときである。
そもそもステーキもすき焼きもいい牛肉を
手に入れさえすれば、わが家で食べるのが一番なのだ。

ところがひとたびフランス人の手にかかると、
まったく別のものとして生まれ変わってくれる。
「Les Halles(レ・ザール)」。
20年ほど前までパリの中央市場のあった地区。
今はポンピドーセンターがあるが
その市場の名前をそのまま店名にしているとろに
オーナーの自信のほどがうかがえる。
ヒレやロースだけでなく、
たとえばスカートステーキ(ハラミ)など、
上質のカルビのおいしさである。

珍しいのは豚足のソテーで
舌にまとわりつくゼラチン質がたまらない。
そういえば昔、パリのレ・ザールの
「オ・ピエ・デ・コション(仔豚の足)」という
遅くまで開けている店で食べたときには
パン粉を付けて油で揚げたものが出てきた。

ニューヨークの「Les Halles」は
いかにもパリにいるような雰囲気で
食後には、ジタンかゴロワーズで
一服したくなるほどである。

どうしてもアメリカン・ステーキハウスで
食べたいという向きには
松田優作の遺作「ブラックレイン」のロケで使われた
「Frank’s」を挙げておく。
あの店で優作は日本から来たヤクザの親分の
喉をかき切ったのだった。


【本日の店舗紹介】
「Les Halles」
 411 Park Ave (bet 28&29st)
 212-679-4111

 
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2008年8月6日(水)

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