「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第557回
小江戸・佐原を歩く(その2)

水郷・佐原の老舗食堂「桶松」で
ごはんの中にも海老天の潜む天丼を食べたあと、
市内をゆっくりと散策する。
香取街道と小野川沿いの古い町並みが
来訪者の目を楽しませてくれる。
限りなくコンパクトな町につき、
1時間ほどで全容を見て回ることができた。

家を出るとき、たまたまバッグに放り込んだ
「若い読者のための短編小説案内」
(村上春樹著・文春文庫)を
車内でパラパラめくっていると、
吉行淳之介の「水の畔り」という小説の舞台が
偶然にも佐原なので、いささか驚いたことだった。

実際に吉行は転地療養の日々を
ここ佐原で過ごしていたのだ。
小説にあるように、運河のような小野川を
ほんの5分ほど歩いてさかのぼると、
湖のように巨大なT川(利根川)に行き当たる。

利根川を見ていてふと、
水郷・潮来に足を延ばしたくなった。
酒を飲み始める「夕暮まで」、まだまだ時間がある。
即断即決、1時間に1本ほどしか
列車が来ない成田線に乗って潮来へ。
所要時間はたったの十数分だ。
この先には鹿島アントラーズのホームグラウンド、
鹿島スタジアムがあるが
こんな辺鄙(失礼!)な場所にあって
よくも集客できるものだと妙な感心をする。

潮来では、花のないあやめや潮来の伊太郎の碑を
ながめたりして時間を費やした。
炎天下、それでもときどき観光用の小船が行き来する。
こんな時期でも女船頭さんが数人、
出張っていてヨソ者とみると、
声を掛けてくるがそれに応じる客はまずいない。

佐原に戻り、造り酒屋を2軒めぐった。
「馬場本店」には昔ながらの雰囲気が
そのまま残っていて趣きがあった。
観光客の姿少なく、行き交う作業中の方々は
気軽に挨拶の言葉を掛けてくれ、気持ちがいい。

「東薫酒造」には団体客がたむろして
試飲コーナーや即売店が出ており、
コマーシャリズムが色濃く出ている。
しかし、ここで飲んだ仕込み水のうまさには
びっくり仰天してしまい、
思わずJ.C.、天を仰いだのだった。

その後、夕食のための店を物色するが
この町には飲食店がきわめて少ない。
酒亭・居酒屋の類いがほとんど見当たらない。
目抜き通りの香取街道には「小堀屋」なるそば屋が
本店・別館・支店と3軒もあり、
ほぼ食べもの商売の権益を独占している。
ほかにはとんかつ屋が1軒あるだけで
地域のためにも観光客にも、よいこととは思えない。

町中くまなく歩き、気は進まなかったが
仕方なしに「山田」といううなぎ屋に入店。
グルメ雑誌にたびたび取り上げられていて
うな重のグラビア写真にもお目に掛かったが
なぜかおいしそうには見えなかった。
こういうときは何かイヤなことが起こるもので
やはり、予感は的中するのだった。

             =つづく=

 
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2008年8月20日(水)

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