「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第560回
哲学者はプレイボーイ
=れすとらん しったかぶり=
あの頃のニューヨークシリーズ(3)

北京オリンピックの陸上競技の
中長距離レースを観ていて
エチオピア勢の強さ・速さには舌を巻いた。
男子も女子も圧倒的、他国の追随を許さない。
ここで思い浮かんだのがある人物。
ローマ・東京とマラソン二連覇を成し遂げた
アベベ・ビキラである。
還暦以上の方なら、彼をよく覚えておられると思う。

東京五輪の直前だったか直後だったか、
定かではないのだが、往時のTVの人気番組に
「スター千一夜」というのがあって
アベベ本人が出演しているのを観たことがある。
彼が言うには強さの源泉は生の牛肉とのこと。
ただし、生の牛肉には虫がいるので
食後に虫下しが必要不可欠なのだと語っていた。

その当時の東京には焼肉店が非常に少なかったから
ユッケなどという生の牛肉料理にはまったくなじみがない。
さすがに偉大な選手は食生活からして
ずいぶん違うものだと感心した覚えがある。
そこで今回はアベベにもふれた
あの頃のニューヨークシリーズ第3弾。

1973年秋、エジプト・スーダンを経由して
エチオピアの首都アジスアベバに入った。
皇帝ハイレセラシュの統治下にあり、
人々の暮らしは貧しかったが
たび重なる内戦で荒廃した現在のようなことなかった。
街には活気があふれていて
市場では屠(ほふ)られたばかりの
羊の生首をかかえた子どもたちが走り回っていた。
夜ともなれば、あちこちの酒場の止まり木に
春をひさぐ女性たちが鈴なりになっていたものだ。

エチオピアといえば
思い出すのは裸足の王者アベベ・ビキラ。
コーヒー色の肌にひげをたくわえ、
ひたすらゴールを目指すストイックな風貌から
「走る哲学者」の異名をとったのだが
アジスアベバの酒場で聞いたことには
そのイメージとは裏腹になかなかの艶福家だったらしい。
交通事故で半身不随の不幸に見舞われるが
そのときもスポーツカーの助手席には
うら若き美女が座っていたそうな。
スキャンダラスだが、こんなことで過去の栄光に
傷がつくわけでもないし、
英雄、色を好むということわざもある。
案外、本人も草葉の陰で苦笑しているかもしれない。

エチオピアの食事はインジェラ抜きには語れない。
高山植物のテフを原料とした
スポンジ状のパンケーキで表面に気泡が浮き立ち、
感触としては鹿児島の銘菓・かるかんに似ている。
このインジェラに各種煮込み料理を包み込んで食する。
手で食べるので指先の不器用な人には厄介な代物だ。

ソホーのはずれにポツンとある「Abyssinia」。
トマトが焦げたような苦くて酸っぱい
ベルベレソースを多用する。
骨付きの仔羊は少々固くてパサついた。
むしろ牛挽き肉と玉ねぎの炒め煮がよく、
カレ(青菜)とポテトの付け合せも悪くなかった。
安価な店なので、訪れて口に合わなくとも後悔はしない。
週末に夫婦二人で出掛けるのにオススメである。


【本日の店舗紹介】
「Abyssinia」
 35 Grand St.(corner of Thompson St.)
 212-226-5959

 
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2008年8月25日(月)

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