「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第565回
パリから帰って来た男(その3)

東京におけるJ.C.のホームグラウンド、
神保町の「やまじょう」にて
フランス帰りのH大シェフが
腕を振るうフルコースは
3皿目の平貝のマリネに差し掛かっている。

1週間ほど前、浅草の「鮨よしだ」で
平貝の奥深い味覚に目覚めたシェフは
当初、帆立貝でのぞむべきところを
急遽、平貝に切り替えたのだった。
人間の腎臓のような形をした平貝の貝柱を
フランボワーズ(ラズベリー)のヴィネグレットで
マリネートし、梅の風味のジュレを添えてきた。
われわれはわさび醤油とは異なる食味を楽しむのだった。

続いては鱈場蟹のサラダの
キャロット・ジュリエンヌ添え。
ボイルして冷やした蟹肉に添えられた
人参サラダがいかにもパリらしい。
ジュリエンヌというのは繊切りのこと。
とんかつの脇役のキャベツが
人参に取って代わったと思っていただければよい。

これが何でパリらしいかと申しますと、
パリの惣菜屋の定番なんですね。
J.C.がまだ若かりし頃、
さんざっぱらこの人参にはお世話になった。
財政的理由から外食がままならないので
この人参とチーズとバゲットを買い込み、
パリの安宿でつつましやかな晩餐としたのである。

人参が常備菜となったのには
大の人参好き(馬か、お前は?)が最大の理由だが
野菜が不足気味となるその頃の食生活を
じゅうぶんに考慮した上での
ビタミンと食物繊維の摂取だった。

そしてそんなときでもビールは欠かさなかった。
ワインがなくともビールだけは食卓を飾っていた。
食事もさることながら
あの時代の最大の楽しみは
夕食時の1本、あるいは2本の
ビールだったことに間違いはない。

にんにく風味の冷たいトマトスープは
この季節ならではのおいしさ。
スペイン風のガスパーチョよりは断然こちらだ。
この夏最高の冷製スープとなった。

本日のサカナは鱗を付けたままの甘鯛のポワレ。
京料理で言う若狭焼きのフレンチヴァージョンである。
鱗はサクサク、身肉はシットリ。
本日のベストディッシュはこれ。

そしてA5級の栃木牛のサーロインを使った
ポワレを赤ワインのソースで。
霜降り和牛のサーロインのしつっこさが
苦手のJ.C.なのだが、この肉は無駄な脂肪を
身にまとっておらず、すんなり胃の腑に収まった。

デセールは今が旬の白桃のコンポートと
ソルベのアンサンブル。
デセール嫌いのJ.C.も桃と訊いては黙っておれぬ。
ペロリと平らげて幸福な時間の
締めくくりとしたのである。
H大、M由子、M子のみなさん、ご苦労様。
10人揃ってお口もお腹も満ち足りました。


【本日の店舗紹介】
「やまじょう」
 東京都千代田区神田神保町1-32
 03-3219-6780

 
←前回記事へ

2008年9月1日(月)

次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ