第569回
駅から遠いが極上の鮨(その1)
不忍通りの駒込稲荷坂下、本駒込五丁目に
一軒の小体な鮨屋がたたずんでいる。
屋号は「ゆうひ鮨」。
この「五丁目の夕日」の
江戸前鮨がうまいんだな、とっても。
クルマで向かえば、簡単に行き着く。
大通りに面しているし、
稲荷坂下の信号機の真ん前ということもあり、
迷わずに到着することができる。
ところが電車の場合は少々厄介だ。
JRの駒込駅と田端駅、南北線の本駒込駅、
この3駅を線で結ぶ三角形の
ちょうど真ん中に位置しているため、
どこから歩いても等しく遠い。
店先に木製の品書き札が掲げられている。
小肌・鯵・穴子・づけ・中とろ・赤貝・〆鯖・
煮蛤・地蛸・海老・生うに・玉子
などが所狭しと並んでいて
にぎり1人前1500円より、
にぎり一貫200円より、
刺し盛り1800円よりと明記されている。
店内に入るとつけ台はたったの5席。
ほかにテーブルが2卓のみ。
夫婦二人きりで切り盛りしている。
壁の貼り紙に、
しゃりは赤酢で合わせる
わさびはさめ皮であてる
種には煮切りをぬる
ガリはちょっと辛めに自分で漬ける
玉子焼きはどこから見ても焦げ目なく玉子色に焼く
お茶は心を込めて漉す
今日まで守ってきたこと、
これからもずっと守っていきます。
そして何よりお客様に楽しく食べていただくこと。
これが「ゆうひ鮨」の信念です。
とあった。
いいですね、けっこうですね。
訪れるたびに、その信念が
確実に実行されていることを実感する。
面白いのは
「玉子焼きをどこから見ても焦げ目なく
玉子色に焼く」という一文。
玉子色って何色だろう。
人によっては真っ白と答えるのではないか。
あるいは白と黄色のツートンカラーとか。
おそらく真っ黄色ではない、
穏やかな黄色を指すのだろうが
玉子焼き色というのが正しい。
でも、この一文がヤケに微笑ましかった。
マスコミ関係の仕事に従事している、
通称・オーガスタと二人で訪れた。
この人はなかなか食べものにウルサい人で
鮨はもちろん大好物なのだが
ほかに変わった嗜好を持っていたりもする。
多少、アタマがおかしいのかもしれない。
そういえば、子どもの頃に熱を出した、
とか何とか臆面もなく言い放っていた。
=つづく=
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