第579回
居酒屋の宝庫・大塚駅前(その2)
大塚の焼きとん屋「富久晴」では
そのような偶然もあったのである。
こんな調子で大塚の町にやってくると
必ず目当ての店の前かあとに
「富久晴」の暖簾をくぐることにしている。
話は変わって最近のこと。
当コラムの読者のW辺さんに誘われて
業務用食材大手・K社の展示会に赴いた。
W辺さんはついこの間まで
K社にお勤めだった、いわばOBである。
2時間ほど楽しませていただいたあと、
二人で飲みに出ようということになる。
この行動はお互いに想定の範囲内で
それぞれ事前に候補店を頭に描いていたくらい。
候補というのは、彼は大塚の鮨屋か居酒屋。
こちらは池袋の焼き鳥屋か大塚の居酒屋であった。
偶然にも二人の思惑が一致した居酒屋は「江戸一」。
いくら大塚が池袋の隣り町とはいえ、
ともに「江戸一」を候補に挙げたところが
この店のこの店たる所以である。
というわけで大塚行きを決断し、トコトコ歩いて行った。
到着したのは18時ちょっと前だったろうか、
入ってすぐ左側の角かどの席に何とかすべり込めた。
コの字形カウンターに空席はあと一つか二つ、
実に幸運と言わねばねらない。
さっそくキリンラガーの大瓶を1本取って乾杯だ。
突き出しに出たのは殻はむいてあるが、
皮はそのままのピーナッツだった。
皮つきピーナッツを見ると、条件反射的に
京都・新京極のバー「サンボア」を思い出す。
つまみに頼んだのは冷奴と鯵刺しと新子の3品。
新子だけは二人前お願いする。
するとどうだろう、壁の品書きにあった新子が
売り切れになって消されたではないか。
これまた幸運と思わねばならない。
新子の塩と酢の塩梅がけっこうだ。
木綿豆腐の冷奴からは穏やかな大豆のうま味が
じんわりと押し寄せてくる。
前回の訪問から間が空いたものの、
フードメニューが確実に進化を遂げている。
食べるというよりは日本酒を味わうことに
軸足を置いていたはずの「江戸一」も
認識を新たにしなければいけなくなった。
つまみがイマイチだったため、
春に出版された「庶ミンシュラン」でも
ハナからノーマークにしていた。
これでは無視すること能わず、
近々、リコンファームに舞い戻らねば。
女将さんの心配りも相変わらずで
鯵刺しには生姜、新子にはわさびと、
醤油の小皿を二替わり用意してくれる。
真澄・高清水・梅錦、
それぞれに好みの酒を堪能して
W辺さんもご満悦のご様子。
大人数には向かないが喧騒を離れてゆるりと
飲みたくなったら大塚の町に来ればよい。
【本日の店舗紹介】
「江戸一」
東京都南大塚2-45-4
03-3945-3032
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