「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第592回
元はと言えば サカナ屋さん(その2)

生ビールから瓶ビールに切り替える。
キリンのラガーと秋味があるうち、秋味を選ぶ。
たっぷりの本わさびが添えられた
一人前の刺盛りを二人でつまむ。

天然真鯛が清涼感にあふれている。
一尾しかない車海老はオーガスタにゆずった。
青柳は千葉の浦安か木更津あたりの産だろう。
木更津とくれば今度は「切られ与三郎」だ。
「弁天小僧」(第591回参照)に
「切られ与三郎」と続くと、思い出すのは市川雷蔵。
伊藤大輔監督がメガホンをとった二大傑作は
何度観ても飽きがこない。

とり貝も青柳同様に東京湾のものだろう。
中とろのまぐろはどこの港に揚がったものやら
皆目、見当もつかない。
青柳・とり貝とつまんだというのに
またまた貝の北寄貝を一人前追加。
目の前のネタケースに収まっていて
実にうまそうに見えたのである。
ほんのり紅色に染まっているのは
霜降りにした証し、生のままなら
紅くはなく、薄いねずみ色なのである。

登場した北寄刺しはまことに見事であった。

北寄貝刺し photo by J.C.Okazawa

身は肉厚でふくよか。
噛むほどに旨みがにじみ出る。
水管の部分はコリッとした歯ざわりで
貝柱は対照的にサクッサクだ。
帆立、平貝、青柳と食味のよい貝の柱は数あれど、
この世で一番美味なる貝柱は北寄貝である。
予断ながら、逆に一番不味いのは牡蠣。
大ぶりの牡蠣の柱など、
「色が白くて食いつきたいが
 あたしゃ入れ歯で歯が立たないよ」
というほどのシロモノ。
J.C.はカキ酢でもフライでも土手鍋でも
仕込みの段階で取り除くことにしている。

芋焼酎の治助に移行しておいて
あとは厚揚げの焼いたのと焼き鳥のつくね。
どちらも堅実な酒の友である。
殊に厚揚げは若い頃には見向きもしなかったが
歳をとるにつれて、愛すべき食べものとなった。

ほろ酔いとなり、ふと周囲を見回すと
カウンターも小上がりもすでに満員の大盛況。
ただし、大手チェーンの居酒屋で
周りの迷惑もかえりみずに
大騒ぎするバカ者ならぬ若者の姿など、
たとえ一たりとも目にすることもなく、
適度なざわめきの中、
楽しげな笑い声だけが店内に響いていた。

そろそろお開きとする前に最後の一品。
オーガスタに要望を訊ねると、
さざえのつぼ焼きが食べたいという。
一瞬、耳を疑った。
胸の内で「バカじゃないの?」とつぶやく。
貝に始まり、貝で継いで、貝に終わる。
変人の変人たる所以がここにある。


【本日の店舗紹介】
「志ぶや」
 東京都台東区浅草1-1-6
 03-3841-5612

 
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2008年10月8日(水)

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