「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第593回
うなぎの老舗に翳りが見えた

ご存知、投げ銭で有名な目明し・銭形平次。
その名親分のお膝元、神田明神下の「神田川本店」。
東京を代表するうなぎの老舗である。
建物はずいぶん古びてきてはいるものの、
随所に風格を残して、心和ませる気配が漂う。
畳の上で時の過ぎゆくのも忘れ、
くつろいでいただく、うな重には格別の趣きがある。

読者の方からメールをいただいたのは
半年近く前のことだっただろうか。
個室の座敷だけだった「神田川」に椅子席が設けられ、
独りでも気軽に食べられるようになった由。
老舗の思わぬ経営スタイルの変更に
すぐにでも訪れようと思ったものの、
なかなか果たせずにいた。

すると、自ら放った密偵より密書が届いた。
いえ、単なるメールを一本受信しただけですけどね。
何でも「神田川本店」のうなぎがおかしいと言う。
よう判らんがヒドく味が濃くなったようだと言う。
「それじゃ、ちょっくら行ってみるわ」と、
ひとまず返信はしておいた。

ある晴れた平日の昼下がり。
明神下「神田川」の暖簾をくぐってゆく、
J.C.オカザワの姿を見ることができた。
腰に大小をたばさむことなく、
供の小者を引き連れてもいない。
遠くでゴーンと一つ、上野の山の鐘が鳴った。

悪ノリはこれくらいにしておいて、と。
出迎えに出てくれたおニイさんに
「お座敷にしますか、椅子席にしますか?」
そう問われ、当初の目的でもある椅子席をお願い。
両者でサービス料が異なっており、
前者は15%、後者は10%なのである。
安いに越したことはない。

石灯籠が並ぶ庭に臨むテーブルに案内された。
卓上には蛙のマスコットを配した水鉢が置かれている。

プールサイド・フロッグ photo by J.C.Okazawa

並とは呼ばれていないが、安いほうのうな重を注文。
3360円、足すことの336円、計3696円也。
肝焼きは予約の客が総ざらいしてしまったとのこと。

「お急ぎですか?」と訊かれたので
「いいえ」とだけ答えると、
35分後にお新香を携えたうな重が運ばれた。
この店には吸い物はあっても肝吸いがないので
あえて頼むことはない。
肝焼きのために肝吸いが出せないのに
その肝焼きがないのではハナシにならない。

さっそく箸をつけて密偵の言わんとするところが
じゅうぶんに伝わってきたような気がした。
うなぎのタレが極辛になっている。
都内屈指のしょっぱさに一瞬、言葉を失う。
おまけに卓上にもタレの用意があるので
重箱の蓋を使って味わってみると
塩分の濃さはうなぎのタレを超えて
江戸前鮨の煮切りの境地に至っている。
このせいで途中からヤケにのどが渇いてきた。

うな重途半ば photo by J.C.Okazawa

何が老舗をそうさせたのか?
この難事件に答えを見出せず、
首を捻るばかりの平次ならぬ、J.C.であった。

【本日の店舗紹介】
「神田川本店」
 東京都千代田区外神田2-5-11
 03-3251-5031

 
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2008年10月9日(木)

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