「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第604回
舞台の上で 死ねたら本望 (その1)

西武新宿駅のそばにロシア料理の
「スンガリー新宿東口本店」がある。
狭い螺旋状(らせんじょう)の階段を下りてゆくと、
それなりにロシア的雰囲気を醸す空間が拡がっている。
歌手・加藤登紀子さんのご母堂がオーナーだったが
ずいぶん前に亡くなられたと聞いた。
それ以後は加藤さん自身が
オーナーになられたハズである。
もっとも店にはあまり、お顔を出されていないようだ。

J.C.は彼女のけっこうなファンを自負しており、
今から20年前、ニューヨークのカーネギーホールでの
コンサートにも嬉々として出掛けていったものである。
加藤登紀子というと「知床旅情」を
思い浮かべる方が多いと思われるが
彼女の魅力はシャンソンとロシア民謡の色濃い曲を
歌ったときに、より顕著に現れるような気がする。

「赤い風船」・「灰色の季節」・「この空を飛べたら」・
「百万本のバラ」・「難破船」・「時代おくれの酒場」と
好きな曲は枚挙にいとまがない。
それでも、マイ・ベスト・ソング・オヴ・トキコは
誰が何と言おうと、「歌いつづけて」である。
フランスのシャンソン歌手・ダリダの持ち歌で
彼女はアラン・ドロンとのデュオで
「甘いささやき」をカバーした女性歌手。
♪ カ〜ラメル、 ボンボン エ ショコラァ ♪
のアレですね。

「歌いつづけて」はお登紀さんの
オリジナルではないけれど、これがトンデモナい名曲。
You Tubeで聴けるので一聴をおすすめする。
男性歌手はまず歌わない曲だが
数多くの女性歌手がカバーしている。
理由は曲のすばらしさもさることながら
その歌詞が歌手冥利につきるからだ。
この歌を歌っているとき、
その歌手は自分が歌手として
この歌を歌えることのできる幸せを
かみしめているに違いない。
この曲はそういう曲なのである。
この曲を愛せない歌手は即刻、
歌手の看板を下ろしたほうが幸せだ

♪雨の日に死にたいとか 太陽の下がいい
  ベッドの上で静かにとか 人は言うけれど
  歌いつづけて いつか 舞台の上で 
  まばゆいライトを浴びて 踊りながら死ぬわ
  いろどられた自由を 抱きしめながら
  歌に燃やした 私だから ♪

村上都久子のボサノヴァ調や
鳳蘭のいかにもタカラヅカ〜!も楽しめるが
やはりお登紀さんである。
人生の深みというか、身体の中に沈み込んでいる
セディメント(滓=おり)がにじみ出るときに
何とも言えない味わいがあって
静かに、しかし確実に胸を打つのである。
惜しむらくはYou Tubeでは間奏が省かれていること。
このピアノ間奏には聴くたびに心を揺さぶられる。
できればぜひ、CDで聴いていただきたい。

どうも自分の好きなことに話題が及ぶと
コントロールが効かなくなることはなはだしい。
ロシア料理の「スンガリー」であった。
この夜は男ばかりが3人で出向いたのだった。

           =つづく=

 
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2008年10月24日(金)

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