「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第612回
青森・大間の本まぐろ

まぐろの仲間で美味の極みと称される本まぐろ。
またの名を黒まぐろ、あるいはシビまぐろとも言う。
本まぐろの産地として名高いのは青森県・大間。
下北半島を刃を左に向けた鉞(まさかり)に例えると、
その刃の上部の突端に当たるのが大間だ。
晴れた日に津軽海峡を臨む大間崎に立てば
北北西に函館山、西南西に竜飛崎が望めるはずである。

石川さゆりの唄った「津軽海峡・冬景色」の二番に
 ♪ ごらんあれが竜飛岬 北のはずれと
   見知らぬ人が 指をさす ♪

という歌詞があるが、あれは知名度と語呂の良さを
優先したものと思われ、大間崎が真の北のはずれだ。
もっとも作詞家の故・阿久悠さん自身は
そんなことを百も承知だったに違いない。

大間のブランド名だけが一人歩きした感は否めない。
それでも一本釣りで仕留められ、
速やかに大間漁港に水揚げされたまぐろは
やはり傑物揃いであることは確かだ。
大間が全国的に有名になったのは
NHKの朝の連続テレビ小説「私の青空」(2000年)に
よるところが大きいと思われるが
それ以前に、先ごろ亡くなられた緒形拳さんが
主役を演じた「魚影の群れ」(1983年)もまた、
まぐろの一本釣りに命を懸ける大間の漁師の物語だった。

ここで突然、下北の大間から、東京・下町の本所へ。
隅田川に架かる厩橋を東へ渡り、
春日通りを真っ直ぐ進むと、
三ツ目通りのちょいと手前にあるのが「わくい亭」。
界隈では名うての居酒屋がここである。

久しく訪れていなかったので
ふと思いつき、独り歩いて行った。
ビールはアサヒの大瓶、突き出しはせりの白和えだ。
壁の品書きに大間産本まぐろ赤身刺しを認め、
初っ端のつまみとする。
8切れほど盛られて、これが850円と割安。
濃厚な味わいも赤身の本領発揮である。
先夜、集まった中野は「第二力酒蔵」の
それよりも安いし、うまい。
しかも中野はニセわさだが
本所は文字通り、本わさであった。

瓶ビールが半分残っているにも関わらず、
新潟の銘酒・麒麟山の常温の小徳利をお願いした。
醤油の小皿に醤油と同量の清酒を落とし、
そこに赤身を並べて自家製ならぬ、
お手製のまぐろ赤身ヅケを作成するのである。
生でそのまま食べるより、はるかに美味だ。
これは応用可で、赤ワインと楽しむときには
清酒の代わりに、その赤ワインを醤油と合わせる。
どちらも目からウロコ請け合いなので、ぜひお試しあれ。

ボリュームたっぷりのふき煮(350円)、
残念なことににんじんが不在ながら、
子持ち昆布入りの自家製松前漬け(500円)、
1人前が1本半もあり、とうとう食べ切れなかった
きゅうりぬか漬け(200円)などを酒の友として
久々の「わくい亭」をエンジョイしたのだった。

このあとは三ツ目通りをひたすら北上し、
言問橋を西に渡り返して、
観音裏の馴染みの店を目指しました。


【本日の店舗紹介】
「わくい亭」
 墨田区本所3-22-12
 03-3829-3751

 
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2008年11月5日(水)

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