第623回
これが本当の鮨屋の姿(その2)
日本橋の「吉野鮨本店」は明治12年創業。
明治・大正・昭和の文豪・永井荷風と
同い年ということになる。
西暦だと1879年だから来年でちょうど130周年。
1789年のフランス革命は創業の90年前に当たり、
歴史年表で見れば、サルコジ大統領よりも
ルイ16世の時代のほうがずっと近い。
J.C.がこの店を高く評価するのは
供される鮨はもとより、店内の雰囲気にも
普遍性・庶民性・正統性が
如実に現れているからである。
適切な価格で真っ当な鮨を
昔ながらの小粋な空間で食べさせてくれるのだ。
真っ当な鮨は昭和の香りに満ちている。
直近は「J.C.オカザワの昼めしを食べる」の
取材のため、ランチタイムに訪れた。
その日はにぎりの並をお願いする。
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並にぎり photo
by J.C.Okazawa |
ご覧の内容は前列右から、穴子・玉子・海老。
後列右から、かんぱち・赤身・中とろ・いか。
巻きものが手前から、かっぱ・鉄火・かんぱち。
これが税込みで1575円。
惜しむらくは粉わさびなのだが
本わさび以外は認めないJ.C.も
老舗がこの値段で頑張っているので
目をつぶった次第なのである。
海老も車海老ではなく、
東南アジアから輸入された養殖モノだろう。
昔はメキシコ湾で大いに水揚げされたので
メキシコ海老、通称・メキなんて呼ばれていた。
この店はやはりつけ台に座って
お好みでにぎってもらうのがよい。
さすれば、本わさ100%でお願いできるしネ。
後日、ちらしも食べておかねばと再訪。
こちらも並を注文して、にぎりと同値の1575円。
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並ちらし photo
by J.C.Okazawa |
内容が見えにくいが順不同で紹介すると
赤身2枚・中とろ・かんぱち・小肌・
たこ・いか・海老・煮帆立・いくら・玉子。
ほかに蓮根・しいたけ・にんじん・絹さや。
酢めしにはかんぴょうがまぶされ、
おぼろが敷かれている。
あとは漬け生姜と粉わさびが別皿に。
ちらしとにぎりを両方食べてみて
昼めしにはちらしがよいと実感する。
なんとなれば、主役を張るサカナたちの
存在を無視できないものの、
蓮根・しいたけやかんぴょう・おぼろの脇役たちが
酢めしにシックリと馴染むからである。
酒を飲まない幼少の頃、
にぎりよりもちらしのほうが好きだった。
長野市に住んでいた頃に
出前で取ったちらしは
蓋付きの陶器のどんぶりに入っていて
蓋を開けたときのうれしさを今でも憶えている。
結局、にぎりは酒を飲む夜に限りますな。
【本日の店舗紹介】
「吉野鮨本店」
東京都中央区日本橋3-8-11
03-3274-3001
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