第636回
酉の市の一日(その3)
「志満ん草餅」の餡入りと餡抜きを買った。
餡抜きは、きな粉と白みつを掛けて味わうのだ。
この日の夜は「下町を食べる会」が
「すし468」で開催される。
そのあと帰宅してから食べるのか、
それとも明日になってしまうのか、
明日になったら硬くなってしまうかも・・・
などと考えあぐねて歩いていたら、
目の前に白鬚神社が現れた。
戦災を免れた墨東を代表する神社は
初めての参詣につき、神妙にお参りをする。
白鬚橋を西に渡って、ここからは台東区。
ずいぶんと表情を変えた山谷の町をゆく。
♪ 今日の仕事は つらかった
あとは焼酎を あおるだけ ♪
岡林信康のデビュー曲、「山谷ブルース」の
歌詞とメロディーが目の裏をよぎった。
吉原大門の見返り柳を見返りながら
花の吉原・仲之町通りに入った。
吉原神社から弁天池に抜ける間は
ソープランドの客引きのお兄さんが鈴なりだ。
ここまで来ると屋台から流れる
食べものの匂いが鼻腔をくすぐり始める。
嬌声を交えたざわめきも風が運んできた。
遠くに人だかりが見えてくる。
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昭和初期をしのばせる光景 photo
by J.C.Okazawa |
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おたふくソックリのお兄さん photo
by J.C.Okazawa |
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おたふくをアップで photo
by J.C.Okazawa |
朝顔市・ほおづき市・植木市・羽子板市と
浅草・入谷界隈に数ある市では
この酉の市の風情が一番好きだ。
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人出はあるが買い手は少ねェ photo by
J.C.Okazawa
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それでもありがたくお買い上げ photo by
J.C.Okazawa
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ど真ん中に中村屋 photo by J.C.Okazawa
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酉の市の人並みにまぎれていると、
自分が生まれる以前の世界に
足を踏み入れているような気がしてくる。
これが何とも言えずに心地よく、
心の高揚を促してくれるのだ。
関東各地に散在する鷲(おおとり)神社は
埼玉県北葛飾郡の鷲宮(わしのみや)神社を
その大社とするようだが
江戸時代には現在の足立区のはずれ、
花畑の大鷲(おおとり)神社が
本酉と呼ばれて民衆の信仰を集めた。
これに対してここ浅草・千束の鷲神社は
新酉と称されたのである。
=つづく=
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