第639回
おでんが美味しくなってきた
銀座はおでんの激戦区である。
おでんのイメージは下町チックだから
深川や浅草に名店・佳店があろうと思いきや、
予想に反してそうではない。
おでんに関しては銀座のレベルが非常に高いのだ。
銀座の名立たるおでん屋さんを列挙してみると、
まず、高級店の「やす幸」と大衆店の「お多幸」の
2軒が古株として東西の両横綱。
あとは「ぎんざ 力」が鯨モノにも長けた優良店。
大阪から進出してきた「四季のおでん」も
カウンターだけの小店ながら、
東京の関東炊きとは一線を画する名品を揃えている。
「やす幸本店」に長いこと勤めた田中さんが
満を持して開いた、その名も「田中」を一夜訪れた。
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階段途中のモダンな看板 photo
by J.C.Okazawa
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昭和通りに近い銀座3丁目に店はある。
焼き鳥の佳店の「武ちゃん」と「鳥政」の近くだ。
さっそく生ビールを頼むと、
ちょうど生中と生小の中間サイズ。
銘柄はサッポロで、これを一杯やったあと、
スーパードライの中瓶に移行する。
突き出しに生青海苔の二杯酢が出た。
これからおでんを食べ続ける前に
なかなか気の利いた小品といえよう。
この夜は三人で訪れたので
即おでんとは参らずに一品料理を数皿、所望する。
何となれば、独りの場合はほんの一品食べれば、
あとはおでんだけで腹一杯になってしまうからだ。
かつお刺身・鳥塩焼きポン酢・新香盛合わせ、
それに鰆(さわら)の西京焼きを注文した。
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はじかみをあしらった肉厚の鰆西京焼き photo
by J.C.Okazawa
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いずれも水準が高く、殊に鰆が秀逸だった。
さて、いよいよおでんだ。
最初の一皿は大玉とはんぺん。
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大玉とはんぺんのコントラストの妙 photo
by J.C.Okazawa
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大玉というのは俗に言うボールのビッグサイズ。
玉ねぎのプツプツ感が、歯に舌に心地よい。
続いていわしのつみれとすじ。
このすじは牛すじではなく、
鮫ナンコツ入りの魚のすじである。
個性的なおでん種で、J.C.は子どもの頃から大好き。
逆に牛すじはめったに頼まない。
前述の「四季のおでん」はアキレス腱100%なので
これだけはいつもお願いしている。
がんもどき・ふき・子持ちやりいかで締めた。
雰囲気的には「田中」のほうが「やす幸」よりも落ち着ける。
「次は何にいたしましょう?」―このプレッシャーがない。
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店主と客との間合いが絶妙 photo
by J.C.Okazawa
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ひとえに店主の人柄の賜物であろう。
夏の終わりから一気にフトコロの痛んだ諸兄には
本家「やす幸」と比して、質を落とさず、
予算は半額に近い、この「田中」を強く推す。
【本日の店舗紹介】
「田中」
東京都中央区銀座3-10-15
03-3544-6333
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