「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第641回
明治12年創業のちらし鮨(その2)

以前から気になっていた東神田の「帆掛鮨」で昼食。
よせばいいのに、ちらしの大盛りを注文してしまい、
そのボリュームに当惑している。

もともとJ.C.はかつ丼でも天丼でもちらし鮨でも
どちらかというと、おかずが余ってしまって
ごはんや酢めしが足りなくなるケースが多い。
例外はカレーライスだけでカレーの場合は
たっぷりとソースの掛かったのを好むから
カレーソースのほうが足りなくなる。
この日も酢めしの不足を懸念するあまり、
大盛りをお願いしたが、普通盛りでじゅうぶんだった。

ところが実はこの酢めしがこの店の一大特徴で
砂糖をまったく使わずに酢を強く利かせたもの。
ここ数年、初めて訪問した鮨店の中で
これほど酢が主張する酢めしはちょっと記憶にない。
しかも味わってみると、
昨日、今日に始めた感じの酢の塩梅ではないから
昔からこの店はこうだったことが伝わってくる。
酸っぱいのが苦手な向きは往生しようが、
J.C.は嫌いなタイプではない。

チョコンと添えられたわさびは
粉わさではないものの、混ぜわさだった。
値段を考慮すれば、これもいたし方なし。
鮨種を検証すると、まぐろの赤身はなかなかで、
ゆでいかは昨夜の残りの苦肉の策だろう。
スモークサーモンはやめてほしいが、
これとて値段を考慮すれば、文句は言えない。

惜しむらくは、煮ものとひかりものの不在。
生あじよりも酢で〆た小肌がほしい。
穴子も小さいのが一切れでよいから、入れてほしかった。
しかもあとで訊いたら、穴子が自慢だというではないか。
穴子が採算に合わないのなら
せめてしいたけの煮しめか煮かんぴょうを――。
あとはおぼろがあったら、奥行きがずっと拡がるだろう。
しじみの赤だしは出汁がよく出て、お椀にたっぷり。
ケチケチしていないところがいい。

ネタケースには春子・いわし・帆立・
青柳・穴子などがズラリと並んでいた。
春子と穴子の仕上がり状態から察するに
古い江戸前仕事を継承していることが判った。

昼どきは混雑していて銀座の「ほかけ」との
コネクションについて何も訊けなかったが、
帰宅後に調べてみると、案の定、
明治12年創業の老舗であった。
現在の建物は昭和35年の建築だという。
三代目夫婦とその息子さん(将来の四代目)の
三人で切り盛りしているが
来年で創業130年になるのに
いまだに三代目というのは
歴史の長さに対して親方の数が足りず、
途中、紆余曲折を経ているのだろう。

明治12年といえば、わが浅草散歩の先達、
永井荷風がこの世に生を受けた年。
威勢のよさとネタのデカさだけをウリにして
どこの馬の骨とも判らぬ深海魚や養殖魚をにぎり、
メリーゴーランドに乗っけてグルグル回す鮨屋の代わりに
読者の方々には、こういう店にこそ行っていただきたい。
種に不満はあろうとも、ちょこっとつまんで
酒を飲むだけでもいいじゃないですか。


【本日の店舗紹介】
「帆掛鮨」
 東京都千代田区東神田2-10-3
 03-3866-4943

 
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2008年12月16日(火)

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