「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第653回
ご主人亡きあと 奥さんが揚げる

ことあるごとにふれているので読者の方々の中に
耳タコならぬ、目にタコができている向きが
あるやもしれぬが、上野のとんかつ御三家は
「ぽん多本家」・「蓬莱屋」・「双葉」。
これに対して浅草のとんかつ御三家は
「ゆたか」・「すぎ田」・「松むら」である。

今年の春先だったか、西空があかねに染まる頃、
浅草御三家の1軒、「松むら」に出向くと、
定休日でもないのにシャッターが下りている。
仕方なくその夜はほかへ回ったが
数日後、昼どきに電話をすると、
ご主人が体調を崩されて
営業は昼のみにしているとのことだった。

それから数ヶ月が経ち、思い立ってランチに出掛けた。
暖簾をくぐると何だか様子が違う。
正面にあったカウンター席が右手に移った。
店内のレイアウトも変わり、
内装もモダンな感じになっている。

一人での訪問につき、カウンターに落ち着いて
厨房に視線を送ると、ご主人の姿が見えない。
カウンターの中に女性が二人、
外には接客の女性が一人、
女性ばかりが計3人で切り盛りしていた。

定食は、ヒレかつ(1500円)・ロースかつ(1300円)・
串かつ(1000円)・串揚げ(1200円)の4種類。
海老フライや帆立フライが消えた代わりに
とんかつ店には珍しい串揚げが加わっている。
もともと「松むら」はロースに定評があるので
ここは迷わずにロースをお願いする。

ロースカツ定食
photo by J.C.Okazawa

定食にはライスのほかに、小さな冷奴、
わかめと豆腐の味噌汁、野沢菜と白菜漬けが付く。

植物油で揚げられるロースかつは
以前より迫力を失った印象。
パン粉の揚げムラも目立った。
ごはんは固めに炊かれて、よい炊き上がり。
味噌汁の化学調味料が気になる。
それでもトータルで評価すれば、じゅうぶんに合格点。

9月の初めのことで季節柄か、BGMはハワイアン。
「ブルーハワイ」に続いて「小さな竹の橋」がかかった。
とんかつ屋でハワイアンは場違いなようだが
これが意外や意外、実にシックリくる。
ハワイでは豚肉がよく食べられるからだろうか。
洋食屋で見かけるポークソテー・ハワイアンには
パイナップルの缶詰が添えられていたりもするしネ。

食事を終えて支払いの段になり、
旦那さんの様子を伺うと、
今年、亡くなられたというではないか。
道理で品書きも雰囲気も変わるわけだ。
現在、厨房の鍋の前に立たれているのは未亡人。
失礼ながら、健気な姿を拝見すると、
サポートしたくなるのは人情。
それにしても、とんかつ屋さんでよかった。
これが鮨屋だったら、亭主の代わりに女房が・・・。
とてもとても、そんな風にはいきゃしませんて。


【本日の店舗紹介】
「松むら」
 東京都台東区浅草1-32-13
 03-3841-3589

 
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2009年1月2日(金)

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