第665回
生き残ったビーフカツ
人形町の交差点にビーフカツの「キラク」があった。
いや、今でも同じ場所にあるが中身が違うのだ。
多くの読者の方々から
本家の「キラク」は経営から撤退したという報告を
受けるようになったのは数ヶ月ほど前のこと。
みなさん、一様にその行く末を心配している。
先日も自他ともにミシュラン三つ星の
エキスパートとして認めるF山さんから
メールをいただき、「キラク」本家が
同じ人形町で「そときち」なる洋食店を開業し、
先代が揚げたビーフカツと寸分たがわぬものを
提供しているので出掛けてほしいということだった。
‘08年10月7日のオープンから2ヵ月後。
人形町は甘酒横丁にほど近い一角。
洋食屋「そときち」の暖簾をくぐってゆく
J.C.オカザワのうしろ姿を見ることができた。
(べつに見たくもない、ってか?)
真新しい店内は清潔そのもの。
フロア担当のエキゾチックな面立ちの
小父さんに見覚えがある。
西アジア出身の人だという人がいれば、
日本人だという声も聞くが、真相は知らない。
厨房で牛もも肉の形を切り揃え、
熱いラードの鍋でカツレツを揚げる女性は
先代・外吉さんの実の娘さんである。
この方にももちろん見覚えがあった。
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女性二人が仕切る厨房
photo by J.C.Okazawa
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中には女性がもう一人。
どちらがどちらか定かでないが
どうやらシスターズのようだ。
おそらく揚げ手が長女だろう。
この日は正直、ポークソテーを味わってみたかった。
でも、今回はビーフカツを食べておくのがミッション。
キリンラガーの中瓶がほぼカラになる頃、
金1800円也のビーフカツとライスが運ばれた。
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見た目も味も変わらぬビーフカツ
photo by J.C.Okazawa
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目の前の懐かしい景色をしばし愛でたあと、
何もつけずにパクリと一切れ。
牛肉の濃い旨味にラードの香ばしさがかぶさった。
ビーフカツはやや薄めのものが二枚付けだ。
卓上の辛子と醤油、それにウスターと中濃の
2種類のソースを駆使して食べ進む。
下味の塩気がほどよく、
もっとも相性がよいのは中濃ソースだった。
キラキラと輝くライスも上々の炊き上がり。
付け合せのマカロニサラダは
今もオランダはゲッティ社製の
綿実油を使っているのだろうか。
なぜか、以前ほどのコク味がなかった。
周りを見渡すとすべての客が
ビーフカツかポークソテーを食べている。
ポークはカツレツとソテーが揃っていても
ビーフのほうはカツレツだけでステーキはない。
【本日の店舗紹介】
「そときち」
東京都中央区日本橋人形町1-9-6
03-3666-9993
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