第676回
渋谷で映画を観たあとで(その2)
渋谷・宇田川町にある雑居ビルの
エレベーターに乗り込んだ。
どうも狭いビルに上るのは苦手だ。
新宿の雑居ビルで悲惨な火災事故が起こる以前から
こういうロケーションの飲食店はなるべく避けてきた。
神経が鈍いのか、はたまた図太いのか、
相方はまったく意に介していない。
和食店「佐賀」の暖簾をくぐった。
入店してもなお、
「どうして今夜はこの店に決めたんだろう」――
そんな思いが頭の中に渦巻いていた。
先刻観たばかりの映画「バンク・ジョブ」の
ヒーローみたいな潔さに欠けている。
テーブル席を嫌ってカウンターに陣取った。
ビールはキリンハートランドの中瓶で735円。
この値段からしてすでに居酒屋ではない。
突き出しが登場した。
 |
色彩感覚に優れているが・・・
photo by J.C.Okazawa
|
右から、むかご塩ゆで・厚焼き玉子・切り昆布煮。
紅葉の赤が彩りを添えて、見た目はなかなかである。
支払い後、明細がないから値段のわかるものから
逆算してみたら、これが何と1240円相当。
二人で2480円也と、やらずぶったくりであった。
あざとい商法と糾弾せねばならない。
計算間違い(もちろん先方の)であることを祈りたい。
相方は金波本醸造の燗をなめている。
J.C.も同じ金波の純米を冷やで所望する。
選んだ酒の友はあみ漬けである。
 |
鯨の主食と成るあみ
photo by J.C.Okazawa
|
ところがこれがやたらにしょっぱい。
塩分がとがったままなのだ。
一緒に頼んだ、がん漬けもしかりだ。
がん漬けというのはシオマネキの塩辛のこと。
熊本産だという新じゃがの煮物を経て
有明海の主、むつごろうの煮付けを。
主というには愛嬌ありすぎのむつごろうは
1尾420円、これは2尾お願い。
 |
やもりじゃないよむつごろうだよ
photo by J.C.Okazawa
|
昇天したあとに、横たわっているのを見ると、
かなりグロテスクな姿ではあった。
そのルックスよりも何よりも、これまたやけに塩辛い。
あとで相当のどが渇きそうだ。
本来は一番初めに出て来てほしい平目刺しが登場。
 |
エンガワ付きでとても上質
photo by J.C.Okazawa
|
一見しただけで素材の良さが伝わってくる。
死後硬直も解けており、
舌ざわり滑らかにして旨味もたっぷりだった。
添えてあるのもおろし立ての本わさび。
値付けは1700円で、これには納得。
あとは焼きおにぎりを一つだけお願いしての
支払いは驚愕の9千円。
17時半から18時過ぎまでの短い滞在中。
お客はほかに誰一人現れなかった。
まっ、時間が時間だけれど、
不況下にこういう商売がはたして成り立つものかしら。
早々に退散して2軒目に向かうわれわれであった。
【本日の店舗紹介】
「佐賀」
東京都渋谷区宇田川町31-4 篠田ビル7F
03-3464-841
|