第680回
もんじゃタウン月島に灯りを点す
いつの頃からか、佃島の隣りの月島は
もんじゃの町になってしまった。
佃島の佃煮に対して、月島のもんじゃ。
どちらが旨いのまずいのはともかく、
伝統の重みがまったく違う。
徳川家康の肝入りで繁栄してきた佃島と
明治25年に東京湾の澪さらいにより、
溜まった土砂で埋め立てた月島とは
その生い立ちからしてまったく異なる。
今日は月島は月島でも、もんじゃではなく、
居酒屋の「岸田屋」を訪ねる。
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帽子がなくても暖簾に脱帽
photo by J.C.Okazawa
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もんじゃタウンに居酒屋は少なくない。
だのに、なぜかこの店だけが抜群の知名度を誇る。
カウンター16席に壁と差し向かいの
サブカウンター6席の計22席のみ。
ここに全国から居酒屋ファンが殺到するから、
席の確保は至難の業となる。
開店直後なら間違いないが
ピーク時には店先に短い行列ができる。
まずは「東京三大煮込み」と謳われる煮込み。
森下「山利喜(七が3つ)」、
北千住「大はし」とともに並び称されている。
早い時間から客が押し寄せる土曜日など、
宵の口に売り切れてしまうことがあるので要注意。
外で順番を待っていると、中からおネエさんが現れ、
「煮込み売り切れですが、よろしいですか?」などと
ささやかれたりもする。
そんなときには肉豆腐をピンチヒッターとする。
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コッテリ肉豆腐にはスタウトを
photo by J.C.Okazawa
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平日は勤め帰りのサラリーマンや
地元の旦那衆で店内は熱気ムンムン。
逆に週末は若いカップルに占領され、
デートスポットとして利用価値が高い。
そりゃ、月島に来てもんじゃばかりじゃ、
彼女にもフラれちまうわな。
燗酒を頼むと、すさまじい熱燗が登場した。
徳利の首をつまめないほどで、これは真夏も変わらない。
先代が元気だった頃は名物のまぐろかけ醤油が
500円そこそこでボリュームたっぷりだった。
今はまぐろはおろか、生モノは一切なくなった。
正直に言えば、つまみ類はもの足りない。
品揃えはともかく、味がイマイチだ。
焼きはまぐりもきんめ煮付けも火の通しすぎで
いわしつみれ吸い物にいたっては
肝心要のつみれにツナギを入れすぎだ。
ところがスタッフはみな好い人たちばかり。
女将さんの下町人情にも心がなごむ。
この店ではあまりガツガツ食べずに
煮込みか肉豆腐をお願いしておき、
独りちびちび手酌酒というのがピッタリだ。
【本日の店舗紹介】
「岸田屋」
東京都中央区月島3-15-12
03-3531-1974
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