第691回
こんなサカナをご存知ですか?
ここのところ何かと自宅で
夕食をとる機会に恵まれているというか、
陥っているというか、
ともあれ、そういうことになっている。
長嶋監督が引退して野球に興味が失せてから
長いことなかったことだ。
野球やサッカーを観戦するときは
会社帰りや散歩の際に
デパ地下で買い求めたつまみ類を卓上に並べ、
ビール → ワインor日本酒 →
焼酎ロックorブランデー水割り
こんなパターンが多かった。
野球はともかく、サッカーの場合は
ハーフタイム以外に席を立てないため、
すべて出来合い料理で手作りは一切なし。
ほかの理由で在宅を余儀なくされると、
通常は鍋料理を楽しむことにしている。
夏場でも鍋の確立は高い。
栄養バランスにすぐれる上、
席を立たずに済むためだ。
冬場の鍋のお気に入りは断トツで
真鱈のちり鍋でふぐよりも好きだ。
殊にアラを使うじゃっぱ鍋には目の色が変わる。
白身のサカナをポン酢で食べるのが
わが家(独りだけだが)のならわしなのである。
その日も日本橋の三越で鍋用のサカナを物色していた。
真鱈や虎ふぐや金目鯛がズラリと並ぶその片隅に
目を引くパックが二つあった。
一つは鮟鱇、もう一つはカジカであった。
どちらも北海道産で同値の1990円。
鮟鱇は一月前にも食べているが
カジカは実に久しぶり。
何年か前に函館の市場で食べて以来だ。
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この目に見つめられちゃった
photo by J.C.Okazawa
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目が合ったこともあり、カジカを手に取ると、
スッと横から伸びた白い手が
隣りの鮟鱇のパックをつかんだ。
無意識に振り向いてしまうのも至極当然だ。
すると今度は若い女性と目が合った。
おそらく三十代には届いていまい。
どこの若奥様か存ぜぬが
若い彼女と鮟鱇のミスマッチに
意表を衝かれた思いがした。
パックには鍋つゆの素が入っていても
J.C.は寄せ鍋のように味つきの鍋は好まない。
ポン酢と薬味でヴァリエーションが利く、
ちり鍋一本やりなのである。
はたして当夜の主役のカジカ君。
プリリとした食感と淡白なうま味で
舌を満喫させてくれた。
鱈や鮟鱇のときには滅多に食べない雑炊も
カジカで試さぬ手はないと、しっかりいただいた。 |