「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第702回
再び「かぐら坂新富寿司」

その夕刻は独り九段下にいた。
柄にもなく友人の人生相談にのっていたのである。
大したアドバイスもできなかったが
あまり悩みすぎるのは
百害あって一理ナシ、とだけ言っておいた。
悩みぬいて解決するものならば、
とことん悩むのもよいが
悩んでも解決しないものは悩むだけ損で
忘れてしまうほうがナンボかマシだ。

靖国神社の鳥居の向こうに
夕陽の名残りがにじむ夕間暮れ。
彼女の後ろ姿を見送りながら
近い将来の幸せを祈りつつ、われに返った。
左腕のスウォッチは間もなく、
長針と短針が縦真っ直ぐになろうとしていた。
どこかの店の暖簾をくぐっても
後ろ指を指されない時間である。
夕焼けを背中にしてゆけば神保町。
左に見ながら歩めば飯田橋。
夕陽に向かって進むと市ヶ谷である。

北西に進路をとって早稲田通りを一直線、
飯田橋駅前の牛込橋を渡って
到達したのはまたもや神楽坂下。
祖国の英霊がねむる社(やしろ)の坂下から
三味のつまびきも途絶えて久しい
花街のふもとにやって来たのである。

この街であらたな1軒を探し求めてもよいのだが
悩み事の相談にのった直後は
気が重く沈んで一向に晴れる気配がない。
こんなときに独り手酌酒では余計に滅入る。
思い浮かんだのは「新富寿司」の婆ちゃんと
孫のR太郎の顔だ。

時間が早いせいか、
つけ台にすんなりと落ち着くことができた。
R太郎の笑顔に迎えられる。
「お婆ちゃん、オカザワさんだよ」
声を掛けられた婆ちゃんが菜箸の手を止めて振り返った。
そのまま皿を運んで来て隣に座る。
その料理がこの金目鯛である。

金目のあら煮は食べでがあった
photo by J.C.Okazawa

真鯛のカブトもいいが、金目のそれも負けず劣らず。
とりわけ目玉の周りのブヨブヨがいい。
「まだ早いけど、いただいちゃうか」
心にもないことをつぶやきながら
婆ちゃんがカラのコップをスッと差し出す。
トク、トク、トク・・・。
「乾杯!」。

金目のあら煮と突き出しのとんぶり山芋だけで
ビールを2本やっつける。
あとはふきのとう味噌とたこブツで菊正の上燗だ。
亡くなった先代(婆ちゃんの息子)の思い出話や
嫁いでいった看板娘(婆ちゃんの孫)の
サッチャンの近況などを酒の肴にしながら語り合う。
月曜日のためか、今宵は客足が鈍い。

にぎりは、さより・青柳・小肌の3カンのみ。

さよりと青柳の小ぶりなにぎり
photo by J.C.Okazawa

めったに頼まぬ鉄火を
巻き簾できっちり巻いてもらい、締めとした。

データは昨日のコラム(第701回)参照

 
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2009年3月12日(木)

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