「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第720回
どぜうの老舗で うなぎを食べる

墨東の清澄と森下の間に位置する深川・高橋は
<たかはし>ではなく、<たかばし>と読む。
小名木川に架かる高橋という小橋が土地の名の由来だ。
その高橋の北詰に明治20年創業の
どぜうの老舗「伊せ喜(七が3つ)」がある。
清澄通りに面するたたずまいに味があって
店内の雰囲気もとてもよい。
暖簾をくぐると、すぐ左側に入れ込みの小上がりがあり、
入口に近いわりにはゆるりと寛げる。

前著「昼めしを食べる」の取材で訪れたときのこと。
小上がりの向かいのテーブル席に女性客が独り座った。
それもうら若き女性だから、この店では極めてまれである。
何度か近所のお婆さんがどぜう汁で
昼ごはんを食べているのを見掛けたものだが
単独の若い女性というのはうなぎ屋でも珍しいくらいで
どぜう屋となったら、よりいっそう稀有なことだ。

昼めしの取材では上限2000円未満のしばりがあり、
残念ながらどぜう鍋は予算オーバー。
マル・ヌキともに一人前2300円もするのだから
それこそ手も足も出ない。
そこで狙いを定めたのが、うなぎの白焼き丼定食。
これなら1500円で食べられる。
うな丼定食も同値だが、せっかくだからと、
よそではあまり見掛けない白焼き丼にした。
新香と味噌椀が付き、味噌椀は
どぜう汁・玉子汁・とうふ汁の3種から選べる。
もちろん、どぜう汁をお願い。

子どもの頃に大衆魚だったどぜうは
うなぎよりずっと安かった。
それがいつの間にやら価格が逆転してしまった。
天然モノはめっきりとその数を減らしているらしい。
香川県辺りの養殖モノが主流となっているようだ。

まずは注文を通しておいて
壁に張り出された品書きを見上げた。

川魚の揃い踏み
photo by J.C.Okazawa

うな丼並の1400円というのは安いと思う。
逆に鯉こくの1050円は高く感じる。
でも、この店の鯉こくはなかなか立派で
量がタップリの上に鯉特有の泥臭さとはまったくの無縁、
冬場に訪れたときなど、これで燗酒をやったらたまらない。
もちろんメシのおかずにしてもよい。

ほどなく白焼き丼が登場した。

並の白焼き丼はうなぎ半尾分
photo by J.C.Okazawa

半尾では淋しく見えるものの、
きゅうりと茄子のぬか漬けがしっかりとしているし、
どぜう汁の存在も頼もしい。
白焼きに添えられたのはおろし立ての本わさびだ。
小皿の液体は特製のたれ醤油だが
化調が気になり、これなら生醤油のほうがずっとよい。

それにしてもきゅうりと茄子が抜群の漬かり具合。
出来のよいぬか漬けに出会うと、白飯が輝きを増す。
この新香とどぜう汁があれば、
うなぎがなくともじゅうぶんに満足がゆくくらい。
ごはん・味噌汁・新香の3点セットこそが
日本人の食事の原点であることを
しみじみとかみ締めて味わった。


【本日の店舗紹介】
「伊せ喜」 
 東京都江東区高橋2-5
 03-3631-0005

 
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2009年4月7日(火)

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