「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第738回
蛍いかの顔も三度まで(その1)

数週間前のこと。
旬を迎えた蛍いかを立て続けに三度、
味わうこととなった。
蛍いかに限らず、
取り立てていか好きというわけでもないが、
けっして嫌いな食材ではない。
いろいろと思いをめぐらしてみると、
けっこう好んで食べていることに気づく。

日本人はおそらく世界でもっとも、
いかを食べる民族ではなかろうか。
デパ地下やスーパーの鮮魚売り場をのぞくたびに
いか、殊にするめいかは物価の優等生だと感じる。
青森あたりから運ばれた新鮮なするめいかが
1パイ2百円前後で売られているのだ。
その優等ぶりは玉子に匹敵するほどである。

しかもするめは大きな肝を抱いているから
簡単に自家製塩辛をこしらえることもできる。
槍いかや墨いか、あるいはあおりいかと比較すると、
テクスチャーが堅く、食味もやや劣るものの、
われわれ庶民にじゅうぶんな美味しさを
運んでくれるところがエラい。

考えてみれば海老フライよりも
いかフライのほうが好きなくらいであった。
さすがに天ぷらとなると、
いくら高級な墨いかやあおりいかを
揚げてもらったとしても
海老の天ぷらより好きだとは言い切れない。
なぜならば、洋食店の海老フライは
大正海老やブラックタイガーが主流なのに
天ぷら屋は車海老を使うからである。
それも巻や才巻と呼ばれる小ぶりで
デリケートなうま味に満ちた海老なのだ。

さて、本日は蛍いかであった。
年度末の二日間。
季節要因で忙しくなることもないJ.C.は
一人の手下を引き連れ、北区・王子の町に出没した。
それもまだ明るいうちであった。
時計は午後4時を回ったばかり。
めざすは城北の名酒場「山田屋」である。
ここは「東京煮込み横丁評判記」で坂崎重盛翁が
体育館で酒を飲んでるみたいだと
評した店なのだ。

まだ早い時間なので先客はほんの数名。
接客のオバちゃんが余裕を見せている。
まずは壁に貼られた品書きを紹介しよう。
ほとんどのつまみ類が240円という設定。
おひたし・にこごり・エシャレット・揚げ出し豆腐・
長芋千切り・ウインナー・はんぺん焼き・味噌おでん・
板わさ・しらすおろし・たこぶつサラダなどが
みな240円均一。
クラシックラガーの大瓶をやりながら
じっくりと検討に入った。

何はともあれ、「山田屋」名物の半熟玉子を
注文しておかなくてはならない。
これは俗に言う温泉玉子ではない。
少なめのもりそばの入ったそば猪口に
冷たい半熟玉子が同居しているのである。


        =つづく=

 
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2009年5月1日(金)

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