「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第742回
蛍いかの顔も三度まで(その5)

前日は王子と町屋で都合4軒のはしご酒。
うち2軒で富山湾名産の蛍いかに遭遇した。
王子の「山田屋」ではボイル、
町屋の「ときわ食堂」では生を賞味したのだった。

翌日は年度末、明ければ
エイプリルフールという夜のこと。
出掛けて行ったのは根津の「鮨かじわら」。
華やかな評判を聞きつけたわけでもないが
江戸前鮨の不毛地帯、谷根千エリアにおいては
キラリと光る鮨屋であるらしい。
店主はかつてこの地にあった「鮨処けい」で
修業したというふれこみだった。

つけ台に着いて言葉を交わしてみても
顔に見覚えがない。
「鮨処けい」を訪問したのは
7〜8年前のことだから記憶は定かでないが、
そのときに二番手はいなかったように思う。

予約の際に確かめると、ビールはエビスのみだという。
「鮨処けい」もそうであった。
同額をチャージしてもらって構わないから
ほかの銘柄の持ち込みの許可をとる。
ところが根津駅前の赤札堂に瓶ビールがなく、
缶ビールになってしまった。
自宅での缶ビールは苦にならないけれど、
飲食店ではどうも締まらない。

見かねた店主が若い衆を買いに行かせてくれた。
それにしてもこの若い衆がマスクを掛けていて
そのせいか終始無言で不気味なことこの上ない。
マスク姿の職人がつけ場に立っているのは
ぞっとしないものですよ。
一瞬、帝銀事件が頭をよぎったくらいだもの。

気を取り直して食事を楽しむことにする。
初っぱなに登場したのがこの蛍いかだ。

躍動感あふれる蛍いか
photo by J.C.Okazawa

前夜と合わせてこれが三度目の顔合わせ。
ボディはもとより、エンペラもゲソも
ピチピチと弾んで、まだ活きているかのようだ。
火の通しの浅いゆで上がりは
生で仕入れたものを親方自身がゆがいたのに相違ない。
はたしてこの蛍いかがベストであった。

続いてコンパクトな刺盛り。

左から真鯛・青柳・さより・かつお
photo by J.C.Okazawa

それぞれに繊細な味わいがある。
シコっとした歯ざわりの真鯛と
清冽な上りかつおがよかった。

穴子沢煮・毛蟹・真鯛の真子煮・釜揚げ桜海老は
いずれも少量ずつ。
穴子沢煮は浅草の名店「弁天山美家古寿司」の
四番打者なのだが、「鮨かじわら」のそれは
残念ながら大御所に遠く及ばない。
あまりにも柔らかく煮すぎるのだ。

このあと焼いてもらった目刺しが
月の桂のぬる燗にピッタリ。
この時点でのMVPは先頭バッターの蛍いか。
まるでイチローのように鮮烈な印象を残してくれた。


            =つづく=

 
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2009年5月7日(木)

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