第743回
蛍いかの顔も三度まで(その6)
2日間のあいだに3軒の店で遭遇した
蛍いかのことを綴ったシリーズが
いつの間にか6回目になってしまった。
読者の中にも「そろそろ打ち切れよ」と
思われる方が少なくなかろう。
その意を汲ませていただき、今回を最後とします。
実は蛍いかのハナシは昨日で終了している。
したがって今日は登場しない。
だが、最高の蛍いかを提供してくれた
根津の「鮨かじわら」で
まだ酒食を大いに楽しんでいる最中なのだ。
中途半端に筆を修めるわけにはいかない。
めざしでぬるめの燗をやり、いよいよにぎりである。
当夜は店主にまかせっきり。
最初ににぎられたのはいかだった。
もちろん蛍いかではない。
外見からはいかの種類までは判らない。
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おろし生姜をあしらっただるまいか
photo by J.C.Okazawa
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店主は供するときに
「だるまいかです」と、一言添えてくれた。
だるまいかは高級するめに使われる剣先いかのこと。
漁場の山陰辺りでは白いかと称され、
西浅草の「鎌寿司」や観音裏の「栄寿司」でも
白いかとして供されている。
かたくちいわしほどに小ぶりな真いわしも生姜だ。
大きいのは酢で〆たほうがよくとも
このサイズなら生でもよい。
生とり貝、〆さばと続き、
ここでこの店の自慢の一品、白魚である。
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鮮度抜群の白魚
photo by J.C.Okazawa
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今宵、もっとも美しかったのがこれ。
うずらの卵黄を従えた白魚たちは
蛇姫様のお使いさながら、
パクリとやるのが惜しいほどの妖艶さをたたえている。
卵黄が決め手で目に美しく、舌にやさしい、
ダブル効果を生んでいる。
さすがに「鮨かじわら」名代の名品。
続いてばふん海胆の軍艦と中とろ。
どちらもまずまずで、特筆するほどではない。
細工を施した小肌にも感心しない。
細くおろして三つ編みにしたもので
見ようによっては気色が悪い。
ゆえに写真を掲載しないことにした。
というのは真っ赤な嘘、撮影に失敗し、
ピンボケだっただけのこと。
締めは穴子。
沢煮をあぶり直したものらしいが
やはり浅草の「弁天山美家古」と比べると分が悪い。
ふりかえって当夜のベストスリーを選ぶと、
(1)白魚にぎり
(2)ゆで蛍いか
(3)だるまいかにぎり
となり、
次点があぶっためざしということになる。
江戸前鮨の優良店の少ない谷根千にあって
合格点を与えられる貴重な鮨店ではあった。
次回はハナからにぎりでビールを飲みたい。
【本日の店舗紹介】
「鮨かじわら」
東京都文京区根津2-30-2
03-5685-0933
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