「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第745回
見落としていた うなぎの名店(その1)

ずっと以前、
柳橋の自宅から日本橋室町のオフィスまで
歩いて通った時期があった。
door to door で30分足らず、
ちょうどよい散歩だったのである。

さすがに真夏に歩くのだけは避けた。
暑いのはいっこうに構わないのが、
シャツが汗まみれになるのがイヤなのだ。
同じ理由で干物屋や焼肉屋もなるべく避けている。
衣服に匂いが染み付くのは不快きわまりない。
近頃では焼肉屋に赴くのは
ほぼ夏の長距離散歩のあとと決めているくらい。
汗だくでひたいに塩が吹いていれば
煙りだろうが油だろうが
知ったこっっちゃあない。

そうして徒歩通勤していた頃は
毎度、同じルートでは飽きてしまうから
たとえ回り道になろうとも
いろいろ道筋を代えたものだった。
メインルートは江戸通り。
ほかには日本橋横山町の問屋街を縦断するコースと
江戸通りの一本西を南下するコースをよく利用した。
そのせいで界隈の飲食店には精通していた。

ところがである。
大変な店を1軒見落としていたことに気づいた。
馬喰町のエトワール海渡の裏手に
由緒の正しそうなうなぎの老舗を発見したのは
つい2ヶ月ほど前のこと。
小伝馬町から裏道をたどり、
浅草橋に抜ける途中、薮から棒に出くわした。

食べものを商う店など
回りにほとんど見当たらない一角に
「丸文」はひっそりとあった。
入り口が左右二つあり、
右側は二階の座敷へと続いているようだ。
左の店舗は気のおけないテーブルとカウンターである。
左側を暖簾越しにチラリとうかがうと
店内はかなりの盛況ぶり。
一つだけ空いていたテーブルに
誘い込まれるようにしてガラスの引き戸を引いた。

愛想のよい接客のおネエさんにほっと一息。
ビールはアサヒの大瓶である。
ここで突き出しに何と、何と、
もひとつついでに、何と、うざくが出た。

ありがたきうざく
photo by J.C.Okazawa

いったいどこのうなぎ屋が
突き出しにうざくを出してくれるだろう。

うなぎ屋でうざくやう巻きを
注文することはめったにない。
メインのうなぎの味がオチるからである。
いや、正しく表現すれば
うなぎを美味しく食べられなくなるからである。
けれども、うざくやう巻きを
食べたい気持ちはやまやまだ。
ほんの少しずつなら、ないよりあったほうがよい。
したがって大人数でわいわいやるときには
二人ないし三人に一人前見当でお願いすることもある。

いやあ、このサイズのうざくを
突き出しに出してくれるなんて、何とよい店だろう。
期待の高まりとともに、心がウキウキしてきた。

          =つづく=

 
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2009年5月12日(火)

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