第746回
見落としていた うなぎの名店(その2)
馬喰町(地番は東神田)で発見したうなぎ店「丸文」で
突き出しに供された小鉢のうざくに欣喜している。
なかなか出せない突き出しですよ、これは。
濃厚な百合の香りに辺りをうかがうと、
座った席の真後ろにカサブランカが生けてあった。
鮨屋だったら強い匂いが気になるところなれど、
うなぎの香ばしさは白百合に負けていない。
奥のカウンターでは常連客が
くつろいで酒盃を重ねている。
女将というか、マダムと呼ぶか、
女主人も客にすすめられるままに
クイクイと酒盃を空けている。
なんだか小津安二郎の映画を
観ているような錯覚に陥った。
接客のおネエさんはおそらく女将の娘さんだろう。
卓上の品書きに、肝焼き・ヒレ焼き(750円)とあり、
おネエさんに訊ねると、1本ずつの盛合わせとのこと。
肝焼きはもちろん、珍しいヒレ焼きも好物につき、
喜び勇んで即刻お願いする。
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どちらも存在感にあふれている
photo by J.C.Okazawa
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これが食べ応えじゅうぶんにして
食味もすこぶるよろしい。
周りに身肉を少々残したヒレ焼きがたまらない旨さ。
粉山椒をパラリと振って串にかぶりつけば、
口中に拡がる滋味、いやあ、堪能しましたね。
白鷹の燗と一緒にうなぎ屋の定番の上新香を注文。
振りかけられた化学調味料が余計ながら
きゅうりと茄子のぬか漬けに
野沢菜・山ごぼう・らっきょうの布陣は
まったくぬかりがない。
正一合の徳利は飲みでがある。
ここでうな重にいってもよかったけれど、
ふと迷ってまぐろとろブツ切りを所望してみた。
まぜわさびには目をつぶり、
白鷹と生醤油をブレンドしてヅケを自分で作った。
この夜はここで打ち止めとした。
二日後のやはり夜。
久々に会う旧友オーガスタと再び「丸文」を訪れた。
うなぎを食べずしてこの店を語れないからだ。
今回の突き出しはうざくではなく、バイ貝の酒煮。
これとて文句のあろうはずがない。
つまみは刺盛り(縞あじ・中とろ・とり貝)と
厚揚げ焼きに、前々日と同じく上新香。
この際、おネエさんにお新香には
化調抜きとお願いすることを忘れない。
合鴨塩焼きをはさみ、
締めには上うな重(2310円)を二人でシェアした。
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色も照りもつややかなうな重
photo by J.C.Okazawa
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期待に応えるうなぎの美味しさに
お互い顔を見合わせうなずく二人であった。
日本橋には、室町・本石町・本町・小伝馬町と
うなぎの名店が目白押し。
その先の馬喰町にこんなにも
いい店が潜んでいようとは
ビックリしたな、もう!
【本日の店舗紹介】
「丸文」
東京都千代田区東神田1-15-1
03-3866-2664
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