「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第751回
直球ど真ん中のフレンチ(その1)

板橋区と北区からそれぞれに
南下を続けてきた都営三田線と東京メトロ南北線が
互いに交わる地点は白金高輪駅。
ここから田町ー恵比寿間をつなぐバス通りを
恵比寿方面に向かうと、
三光坂なる小さな坂の坂下に出る。

白金高輪にまだ地下鉄が
通っていない10年以上も前のこと。
ニューヨークから帰国して間もない頃で
住まいが定まらない時期だったが、
この坂下に親しき友の住まいがあった。

六本木や恵比寿で深酒をしたあと、
下町方面に帰るのが億劫になり、
よく一夜の宿として使わせてもらった。
たびたび一宿の恩義に預かっていたのである。

こちらは朝の8時には
日本橋のオフィスに到着していなければならぬ身。
相方は不規則な仕事ゆえ、
顔を合わせる時間すらないこともあったが
とにかく自由に出入りさせてもらい、
ずいぶんと助かった覚えがある。

そんな縁からこの界隈に抱く愛着は
けして小さなものではない。
近所の商店街を知り尽くしているし、
何度か通った店もいまだに営業を続けてもいる。
翌朝が休日だったりすると、
空っぽの冷蔵庫に失望しながら
近所のパン屋に駆け込んだりもした。

四の橋のたもとにある
フレンチの「ラビラント」は好きな店だった。
当時、それほど通ったというのではないが
今でも好きな一軒である。

桜のつぼみがふくらみ始めた頃。
庶ミンシュランA」の取材に謀殺されていた。
もちろん「ラビラント」もその対象となっている。
一旦、思いいたると、
店のスペシャリテともいえるスープが
無性に恋しくなってきた。
ここには常時、3〜4種類のスープが用意されている。
スープに手を抜かない料理店は佳店である。
優良店と言い切ってもよい。

定番の四万十川のツガニのスープと
地魚のうらごしスープはどちらもJ.C.の大好物。
前者はオマール海老のビスクを
四万十川に棲息するツガニで応用したような一品。
後者はマルセイユのみならず、
南仏海岸の名物となっている
スープ・ド・ポワソンのことである。

ともに何度も味わっているからと、
野菜のガスパーチョかアボカドのクリームスープに
迂回しようとも思ったのだが
それができないところにわが心の弱さがある。
どうしてもリフレインの誘惑に勝てないのだ。

アボカドはあまり好きな食材ではないし、
ガスパーチョもスペイン料理屋で食べたい。
何だかんだと自分で自分に言い訳しながら結局は薬局、
この日もまた、地魚のうらごしスープを頼んだのでした。

            =つづく=

 
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2009年5月20日(水)

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