第752回
直球ど真ん中のフレンチ(その2)
港区・白金は四の橋にほど近い仏料理店、
「ラビラント」でくつろいでいる。
すでに一昔前のことながら
この界隈には土地カンがあるし、
愛着も湧いているので、心安らぐエリアなのだ。
地魚のうらごしスープ、
いわゆるスープ・ド・ポワソンは相も変わらぬ美味。
具材をたっぷりと使うブイヤベースでなくとも
十二分に楽しめるのだった。
サカナというものは身肉の旨さもさることながら
カラダからにじみ出る出汁にこそ
その真骨頂があるのかもしれない。
そういえば「ラビラント」の定番は
サカナの内臓を使ったリエット。
よそのフレンチならばパテやテリーヌを供するところ、
ここではずっと昔からこれである。
地魚に心奪われた心地になってしまい、
温かい前菜として漁師風のサラダを選んだ。
甲殻類のドレッシングソースで食べさせるのだという。
はたして皿の上は様々な魚介のオンパレード。
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多彩な魚介が勢揃い
photo by J.C.Okazawa
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いさきとそのカマ・あんこうとその肝・
コショウ鯛・はも・海胆と実に多士済々。
サカナたちに対する料理人の愛情が
ストレートに伝わってくる一皿であった。
主菜は目移りした挙句、
あまり他店ではお目にかかることのできない
ロニョン・ド・ヴォーに白羽の矢。
ロニョンは腎臓、ヴォーは仔牛のことだ。
銀座「マノワール・ダスティン」のI嵐シェフや
西麻布「ブルギニョン」のK池シェフが
得意とする食材である。
ここでナイフ&フォークが
頑丈なライオール社製のものに取り替えられた。
懸命な処置であろう。
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威風堂々の仔牛のロニョン
photo by J.C.Okazawa
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これは食べ応えがあった。
「あった」というより「ありすぎた」くらい。
付け合わせもフェンネルを中心に相当なボリュームだ。
匂いもクセもある腎臓に
これまた特有の香りを保有するフェンネルをあてがうのは
毒をもって毒を制する発想かもしれない。
これでもう、ロニョンはしばらく食べなくてもいいや、
そんな気分にさせられるのだが、
不思議なもので数ヶ月も経過すると、
また食べたくなるのである。
大衆酒場や居酒屋が好きだから焼きとんには
しょっちゅうお目に掛かっている。
焼きとん屋は焼肉屋よりずっと訪れる機会が多い。
その焼きとん屋、あるいはもつ焼き屋において
レギュラーのシロ・ハツ・レバ・カシラ・
ナンコツはもとより、シビレ(胸腺肉)ですら
たまに見掛けるのに腎臓にはまったく遭遇しない。
特有のアンモニア臭というか、
オシッコ臭が敬遠されるのだろうが、
腎臓がオシッコ臭いのか、オシッコが腎臓臭いのか、
よく判らないところがあって
J.C.はときどき、一人ひそかに悩んでいる。
誰かおせえて。
【本日の店舗紹介】
「ラビラント」
東京都港区白金3-2-7
03-5420-4584 |