「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第755回
光さす三軒茶屋(その1)

隅田川の最下流に架かる勝ちどき橋の手前を
聖路加病院に向かってほどないところに
「フォルトゥーナ」というイタリア料理店があった。
おそらく築地の場外で一杯飲んだあとだったと思う。
近辺をフラフラしていて偶然見つけた。

イタリア国旗が風になびいて
いかにもイタカジュといった趣きに
さして期待もせずに入店したのだった。
軽くつまんで軽く飲もうという腹づもりである。

それがどうしてどうして
何を食べてもハズレがまったくないのである。
これには驚いた。
以来、気にい入ってしまい、
たびたび訪れるようになる。

殊に皮はぎのラグーのスパゲッティが忘れられない。
肉系ラグーを使ったスパゲッティ・ボロネーゼ、
いわゆるスパゲッティ・ミートソースは
もともと大好物。
中でも東京ではめったに食べることのできない
仔牛のミンチのボロネーゼは
全スパゲッティの中でも一番好きなもの。
その白身魚ヴァージョンが
こんなにうまいものとはついぞ気づかなかった。
というよりも、ほとんど他店では
お目に掛かることがなかったのだ。

その後「フォルトゥーナ」のオーナーは
築地場内の仲卸店の経営者だと耳にした。
なるほど良質の魚介類が揃っているわけだ。
新鮮な食材を腕には覚えのある
S賀シェフが縦横無尽に操るのだから
どの料理を食べても不味い道理がない。

ほどなくしてこの店が閉店すると聞いたときには
がっくりと肩を落としたものだ。
ところがそれからしばらくして
S賀シェフが独立してくれた。
三軒茶屋を最寄りとする太子堂に
「チェント・ルーチ」が晴れて誕生した。

下町からだと三軒茶屋へは
築地のように気軽に行けない。
それでも何回か訪れて感じたのは
以前は魚介類に軸足を置いていた料理が
今では有機野菜にシフトしていること。
郷に入れば郷に従えで、三軒茶屋に海はないものね。

嘘か本当か確かめていないが
昔はボクサーだったというS賀シェフ。
春の宵に訪れると、そのいかつい身体が迎えてくれた。
体躯はがっちりしていても
笑ったときの眼差しが優しい。

エビスの小瓶を飲みながら
赤ワインはグリニョリーノ・ダスティ’04年を選び、
メニューに視線を落とす。
この夜の同伴者はサテライツのメンバーの一人。
「チェント・ルーチ」にも来店したことがあるという。

             =つづく=

 
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2009年5月26日(火)

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