「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第759回
チャイナタウンで満腹の巻(その1)

以前、自著を編集してくれたM山サンが
「横浜の中華街に行きましょう」という。
初めて異国に向けて旅立った
港・横浜には強い思い入れがあるから
暇ができると、ちょくちょく出掛けて行く。
それがここ数ヶ月、無沙汰していたこともあり、
彼女の発案に一も二もなく同意した。

普段は秋葉原で京浜東北線に乗り換えるか、
馬喰町から横須賀線快速で行くところを
この日は東京駅で待ち合わせての東海道本線。
同じ東京駅のプラットフォームでも
東海道線は山手線や中央線とは漂う雰囲気がまったく違う。
松本清張「点と線」の冒頭のシーンが頭をよぎった。
この作品は完全犯罪の根幹を偶然性に託すなど、
穴だらけの推理小説だが、けして嫌いではない。

花曇りのはっきりしない天気の日曜日。
関内駅で下車後、真っ直ぐチャイナタウンに向かった。
春も名ばかりか、横浜の街を吹き渡る風は
肌をなぞって首すじに冷たさを残してゆく。

行く先はすでに決めてあった。
中心地を外れた中華食堂「雲龍」がその店。
カウンター数席、あとはテーブル2卓のみの小店だ。
11時半を回ったばかりで店内に客は誰もいなかった。
この調子なら落ち着いて昼めしを食えるだろう。

ビールは我慢して、メニューに目を通す。
ビールがないから海老チリや酢豚などの
一品料理にも封印をして
麺類・飯類から選ぶことにする。
メディアに取り上げられることもなく、
フリの客の到来を望めぬ小体な店は
界隈の常連だけで商売が成り立っている。
数年前にそのたたずまいと雰囲気に惹かれ、
フラリと入店したのも何かの縁。
以来、横浜に来たときには
必ず立ち寄る気に入り店と相成った。
ケレン味のないシンプルな湯麺は大好物だ。

神奈川の県民食ともいえる生馬麺をと
一瞬決めかかったものの、
思い直して什錦炒麺(五目焼きそば)にする。
メニューには「汁錦」と印刷されていたが
それは当て字で、本来は「什錦」が正しい。
さもなくば「五目」の意味をなさない。
ちなみに生馬麺はサンマーメンと発音する。
湯麺のスープを塩味から醤油味に替えたもので、
一般的な湯麺より、もやしが多め。

理想的な正統派五目焼きそば
photo by J.C.Okazawa

もう一つは飯モノから選択する。
M山サンと協議の結果、豆鼓排骨飯に決定。
中華丼や炒飯では面白みに欠けるものね。

うまさが皿から立ちのぼるような排骨飯
photo by J.C.Okazawa

炒麺は細麺がしなやかにしてクリスピー。
かけ回されたあんかけの塩梅もよく、出色の出来映え。
青菜をあしらった排骨飯は豆鼓のうま味いっぱいだ。
でもどちらか片方を取るならば、あえて炒麺に軍配。
二品を分け合って食べ終えたとき、
脳裏には早くも、もう一軒の店が浮かび上がっていた。

            =つづく=


【本日の店舗紹介】
「雲龍」
 神奈川県横浜市中区山下町132
  045-641-9055

 
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2009年6月1日(月)

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