第763回
肉責め 地獄か 天国か(その1)
墨田区・本所に「まるい」なるユニークな店がある。
焼肉屋でもないし、ホルモン焼きの店でもない。
しいてカテゴライズすれば、
肉料理専門店ということになろうか。
当コラムの読者にして、喉頭・咽頭ガンの専門医、
H本さんが四国の香川県に赴任することになり、
彼の送別会のため、「まるい」に総勢7名が集まった。
去る2月、第二回下町を食べる会を
「大阪鉄板厨房おくら」で催した際に
テーブルに同席、あるいはテーブルが
隣席だったメンバー同士が一堂に会したのである。
列席者のうち、J.C.とW辺さん以外は
いずれも類まれな肉好きの大食漢。
その連中が手ぐすねを引いて集結したのだから
注文品は食卓にあふれ返ることになろう。
編集者のF元さんが予約を取ってくれ、
出掛けて行ったのは土曜日の夕まぐれ。
店の前には早くも長蛇の列が形成されていた。
開店と同時に真っ先に入店し、案内されたのは2階席。
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韓国料理屋の小上がり風
photo by J.C.Okazawa
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「まるい」だけに、丸いテーブルが3卓並び、
その中で一番大きな卓に一同、車座となったのだった。
サッポロの生ビールの大ジョッキで乾杯。
「プッファ〜!」
J.C.は同時にサッポロ赤星の大瓶もお願いしておく。
何となれば、立て込む店なので
お替わりの際に若干の不手際が予想されるからだ。
せっかちな性格の持ち主にはこれがツラい。
突き出しに出たじゃが芋の煮っころがしを
箸先で突つきながらも
額を集めてさっそく注文品の吟味に入った。
この瞬間が食べているときと同じくらいに楽しい。
さすがに肉料理専門店のこと、
牛・豚・馬・鶏が勢揃いしており、
刺身・焼き物・煮込み物がメニューの三本柱。
ほかにはサラダ・お新香などの野菜系と
3種類のサンドイッチが用意されている。
客層は若いカップルやグループが目立つ。
安くてボリューム満点の店につき、
お金はあんまりないけど、
暇なら売るほどあるという人々が集って来る。
何せ「まるい」は、どの駅からもかなり歩くし、
たどり着いてからも、順番待ちに時間を食われる。
吟味が終わり、オーダーしたのは下記の通り。
仔牛レバ刺し・馬刺し・馬ステーキ・
地鶏すきみ焼き・地鶏焼き鳥・
仔牛ステーキ・仔牛カルビ・仔牛ロースト
豚以外はすべて注文した。
周りの若者は牛肉信奉者が多く、
ビーフばかりを注文している。
ここでJ.C.、独り冷笑を浮かべ、
「フフフ、まだまだ若いね、キミたち」
――心の内でつぶやいたのだった。
=つづく=
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