第765回
肉責め 地獄か 天国か(その3)
墨田区・本所の「まるい」で酒池肉林のウイークエンド。
仔牛のレバ刺しに続いては深紅にぬらめく馬刺しである。
馬肉専門店はもとより、手軽な居酒屋で食べても
馬刺しというヤツはそんなにヒドいものには当たらない。
たまに半解凍のルイベ状で出されることがあるが
あれだけはあまり感心しないな。
ルイベは鮭・鱒の専管事項としておきたい。
「まるい」の馬刺しは霜降りではないものの、
むしろ馬肉の持つ清廉な滋味が感じられ、
肉質の良さがストレートに伝わってくるものだった。
舌の上でとろけはしないが、とても柔らかい。
お次はまたしても馬肉で、ステーキがドンと来た。
食べやすいよう、すでに包丁が入っていて
醤油ベースのタレがまんべんなく掛かっている。
一切れずつがけっこうな厚みだ。
頬張って噛みしめると、肉汁が口いっぱいに拡がった。
肉質を牛肉に例えれば、
フィレとランプの中間感じか――。
ここでチキン、鶏肉である。
最初に地鶏のすきみ焼き。
すきみというのはすき身のこと、いわゆる首肉である。
焼き鳥専門店あたりでは「せせり」と呼ばれる部位だ。
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食感プリプリの地鶏すきみ焼き
photo by J.C.Okazawa
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実はこの部分がJ.C.の大好物。
焼き鳥ではポピュラーなハツとレバーが好きなのだが
珍しい部位ではこのせせりと背肝がお気に入り。
好物がこれでもかと大皿で登場したのだからたまらない。
そして地鶏の焼き鳥である。
これも二人前の注文で大皿に山盛り。
ぶつ切りのもも肉と、
これまたぶつ切りの長ねぎが豪快に盛られている。
すき身ともも肉、どちらもうまいが
ここはすき身に軍配を挙げる。
はて、あとは何を頼んだんだっけ?
品書きに目を移すのと同時に
今度は仔牛のステーキがやって来た。
これには馬肉ステーキのようなタレは掛かっていない。
代わりにバターが一片、肉上で溶けかかっている。
仔牛の色はやや濃い目のピンク色。
この色で紛れもない本物の仔牛であることが判る。
100g=700円の値段だから
仏産シャロレ種のように上等な仔牛とは言いがたい。
間違ったら御免だけど、乳牛のオスではなかろうか。
メスに産まれりゃもうちょいと
長生きできたかもしれぬ仔牛が哀れといえば哀れ。
それでも親牛がすでに失った繊細な滋味が潜んでいた。
塩・胡椒の味付けも仔牛にはふさわしいものだ。
あとは仔牛カルビと仔牛ローストを待つばかり。
ところが、J.C.とW辺氏には
このあと別の一席が待ち構えていた。
後ろ髪を引かれながらも、これでよかったのかもしれない。
もう若くもない人間がこれ以上食べると
天国から地獄に堕ちることになりかねないもの。
【本日の店舗紹介】
「まるい」
東京都墨田区業平3-1-1
03-3624-0205
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