第782回
穴子の顔は拝めたか?(その2)
穴子のにぎり鮨を名代とする千駄木「乃池」。
そのつけ台に座って上ちらしを待っている。
隣りの席にオバさま三人組がやって来て
ビールを1本注文したところだ。
店内はほぼ満席。
奥のテーブルまでは判りかねるがザッと見たところ、
ほかにちらしを食べている客はいない。
すると、お笑い、もとい、オバさま三人組のリーダー格が
再び口を開いて店主に訊ねた。
「並」とか「上」のちらしに穴子は入っているの?
というのが彼女の質問。
これってまさにJ.C.のもっとも知りたかったところ。
ついさっき自分で上ちらし(1900円)をお願いしたときも
よっぽど確かめようとしたくらいで
核心をつくグッド・クエスチョンなのである。
「見てのお楽しみ」を決め込んだのに
ついつい、応える店主の口元を見つめてしまった。
「それが入らないんですよォ、でもプラス300円で
お入れすることが出来ますけれど・・・」
ここでJ.C.、誰にも聞こえぬ小さな音で舌打ちをくれる。
自分のちらしはまだ完成していないから
今からでも穴子の追加は遅くはない。
が、何か素直にお願いできなかった。
どこか人様のアイデアにちゃっかり便乗するようで――。
何か他人様の問い掛けを勝手に利用するようで――。
三人組はそれぞれに笑みを浮かべ、
穴子入りのにぎりやちらしをオーダーした。
ほどなく現れた上ちらしはかくの如し。
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なぜかグリーンピースがパラリと
photo by J.C.Okazawa
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いかにも町場の庶民的鮨屋のちらしといった風情。
はっきり言って期待はしぼんだ。
かつ丼じゃないんだからグリーンピースは要らんやろ。
つぶさに内容を確認すると、
赤身大2切れ・かんぱち大1切れ・小肌半身・
数の子2片・ゆで海老1尾・赤貝ひも・
伊達巻き2切れ・かまぼこ2枚
あとは、酢ばす・しいたけ・にんじん・かんぴょう・
おぼろ・海苔・漬け生姜、そしてくだんのGPであった。
魚介の品数が少ないわりにボリュームだけはある。
こらえきれずにビールの中瓶を1本。
我慢しようと思えば我慢できたのだろうが
三人組がうまそうに飲むのを看過できなかった。
敵は(いつの間にか敵になっちゃたよ)このあと、
穴子まで食うんだもん。
ビールのアテにまぐろもかんぱちも一切れが大きすぎる。
無作法ながら箸を両手に持って小さく切り分けた。
ちょうど天ぷら屋の主人が穴子を両断するようにね。
ちらしの具の半分強でビールを飲み終え、
そこから酢めしを攻めてゆく。
つくづく感じることだが
ちらしの魅力は味のコラボレーションにある。
たとえば海老&おぼろ、あるいは玉子&かんぴょう。
異なる味覚が舌の上で一体化するちらしは
にぎりからは得られない別種の味わいがある。
だからこそ煮〆たしいたけや酢漬けの蓮根など、
脇役陣の存在がキラリと輝くのである。
【本日の店舗紹介】
「乃池」
東京都台東区谷中3-2-3
03-3821-3922
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