「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第783回
かつての軍都の川魚居酒屋(その1)

JRの山手線と京浜東北線は品川―田端間を併走する。
山手線内回りと京浜東北線下りの車両が分かれる田端駅は
山手線全29駅中、もっとも寂しい駅である。
男女の別れに寂しさはつきまとうものだが
線路が分かれる地点にも寂寥感が漂っている。
とりわけ駅南口の改札は利用客が極端に少なく、
東京都内とは思えぬほどのうらぶれ方である。

京浜東北線をさらに北に向かうと、田端の次は上中里。
この駅の周辺は田端に輪を掛けて静まり返っている。
その次の王子は繁華街を抱えた大きな町で
大衆酒場の名店・佳店がちゃんと控えている。
その先の東十条にも、もつ焼きの人気店が揃っているし、
東京のさいはてのディープな町、赤羽まで来たら
さて今宵はどこで飲むべえかと、大いに迷う事態を招く。

戦前は都内最大の軍都であった赤羽。
軍事工場で働く労働者が夜勤明けに飲めるように
朝から開けている店が何軒もあったのだという。
先週の当コラム(第778回参照)で
町のランドマーク「まるます家」の
紹介を約束したこともあり、今回は赤羽を訪れる。

赤羽駅に到着したのは午後3時過ぎ。
お日様はまだ高いところに居座っていた。
「まるます家」の開店は朝の9時で
ここに赤羽の伝統が息づいている。
とはいっても、店に直行するにはちと早い。
この日は下町育ちの相方を伴っていた。
隅田川の支流に囲まれた低地で育った下町っ子である。
これは絶好の機会だからと、
隅田川の始まりを見せてやろうという気になった。
大川のキリで育った幸薄き友に
そのピンを拝ませてやろうという親切心だ。

直射日光の下を10分ほど歩き、
荒川と隅田川とを仕切る岩淵水門に到着。
水門は2箇所あって今は使われていない旧水門のほうが
不細工な新水門よりはるかに見映えがよい。
旧門の写真をパチリと1枚。

地元の要請で生き残った旧岩淵水門
photo by J.C.Okazawa

のどかな風景である。
水門左手の緑がちょっとだけパリのシテ島に似ている。

帰る道すがら、川のほとりの小山酒造に立ち寄った。
この酒造会社は都内23区に残った唯一の造り酒屋なのだ。

涼風がうなじに心地よい宵の口。
やって来ました「まるます家」。
暖簾越しにのぞくと
入って右手のカウンターに空席があるではないか。
多少の待ちを覚悟した身にとって
大げさな表現ながら、僥倖といわねばならない。

カウンターに落ち着くだけで心が和む
photo by J.C.Okazawa

この店の瓶ビールはサッポロの赤星ラガーの大瓶。
ただでさえ好きな銘柄に
適度な散歩が拍車を掛けて美味いことこの上ない。
つまみの吟味に入りながら、ふと横を見ると、
相方の頬っぺたが早くも赤星となっている。

             =つづく=

 
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2009年7月3日(金

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