「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第781回
穴子の顔は拝めたか?(その1)

谷根千の一翼を担う千駄木の中心地は
団子坂と三崎坂(さんさきざか)の坂下が衝突する交差点。
東京メトロ千代田線・千駄木駅もこの場所にある。

交差点から三崎坂を上り始めてほどなく、
一つ目の信号の右角にあるのが町の中華屋さん「砺波」。
この角を右折すると、界隈の名所(?)のヘビ道が続く。
ヘビ道の異名を取るだけに道がクネクネと曲がっている。
渡辺真知子の歌った 
 ♪ 迷い道 クネクネ ♪
状態なのである。

「砺波」で昼食を済ませて表へ出たとき、
ハス向かいの鮨店「乃池」の前に
順番を待つお客の姿を見かけたことは
先日書いた(775回参照)。
しばらくごぶさたしていたこともあり、
出掛ける気になったのだった。

「乃池」の名代は穴子である。
焼き目は香ばしく、
一刷毛(ひとはけ)引かれる煮ツメが味わい深い。
浅草は「弁天山美家古寿司」のように
ハードタイプの穴子が好みであっても
「乃池」クラスのソフトタイプに文句はない。
それほどにデキがよいのだ。

平日の正午前。
並ぶこともなくすんなりと入店できた。
おお、食べてる、食べてる、
みなさんこぞって穴子を頬張っているではないか。
見るからに幸せそうだ。
それじゃワッチもあやかりまして
穴子のにぎりをいただきやしょう。
そう思いきや、ふと気が変わった。
この店のにぎりならば一通り食べているが
ちらしとなると未食だったことに思いが及んだのである。
昼でもあるし、そうだ今日はちらしにしよう。

目の前の店主はほぼ満席の客の注文をこなして
八面六臂の奮闘振り。
ちらしは、並(1300円)・上(1900円)・
特上(2500円)と3種類あった。
「穴子入りはどれでしょう?」――
訊ねてみようと思ったものの、
「いや、待てよ、出たとこ勝負もまた一興」――
そう思い返して「並」と言い掛けたところを
ちょいと見栄を張って「上」にハンドルを切った。

周りを見渡すと、ちらしを食べている客など誰もいない。
かといって穴子にぎり(8カンで2500円也)を
注文している客も見当たらない。
いくら名物だといっても穴子だけでは飽きてしまう。
客は思い思いに穴子を二カン入れてとか、
三つにしてとか、にぎりの盛合わせをお願いしている。

右隣りの中年夫婦はお好みでぜいたくに召し上がっている。
左隣りの四人連れと入れ替わりに
オバさまが三人連れで入店してきた。
リーダー格が他の二人の反対を押し切ってビールを頼んだ。

              =つづく=

 
←前回記事へ

2009年7月1日(水

次回記事へ→
過去記事へ 中国株 起業 投資情報コラム「ハイハイQさんQさんデス」
ホーム
最新記事へ