第784回
かつての軍都の川魚居酒屋(その2)
戦前は軍都だった赤羽は「まるます家」の
カウンターでサッポロの赤星を空けたところ。
立て続けにもう1本お願いしておき、
さて、つまみだ。
川魚をメインとする多彩なメニューが赤羽はもとより、
都内に星の数ほどある居酒屋とは一線を画している。
近くに荒川が流れていたからだろう。
いや、今でも流れているのだが
「まるます家」が昔から川魚を扱っているのは
そのロケーションと無縁ではないはずだ。
エジプトはナイルの賜物、
「まるます家」は荒川の賜物なのである。
相方が頼んだわらびの煮びたしがけっこう。
シャキシャキ感の残る山菜など、
めったに口に入るものではない。
永井荷風に一筆取らせれば、
夕刻、赤羽に往き晩酌を喫す。
わらびの煮びたし、味佳なり。
こんなふうに表現するだろう。
この店に来たからには
海産物ならぬ、川産物を食さぬ手はない。
鯉・泥鰌・鰻・鯰・鼈がズラリ揃っているが
(さて、いくつ読めましたでしょうか?)
そのすべてを賞味することはできない。
まずは、なまずの唐揚げから。
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カリッと揚がって味佳なり
photo by J.C.Okazawa
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黒い皮目のおかげでちょっと見は
鳥カラとは異なるものの、味は鳥によく似ている。
ここで清酒・金升のお燗に切り替えた。
続いては、すっぽん鍋だ。
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金750円也と格安の小鍋仕立て
photo by J.C.Okazawa
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「鍋は2人前からだよ!」なんて
無粋なことはけっして言わない。
それを言っちゃあ、おしまいで
居酒屋を名乗ることはもうできない。
すっぽん鍋はアッサリしてるのに
ほのかなコク味があり、実に旨い。
男女を問わずに必食の逸品がこれである。
貴女は、その美肌のために。
貴男は、うん? まァ何だ、そのォ、
ここは自分で考えなさい。
かつて江戸の庶民は安価な鯉こくをおかずに
めしを食べたという。
うなぎの蒲焼きはハレの日のご馳走だったようだ。
締めくくりとして相方に二者択一を迫ったのは
鯉こくめしorうな丼である。
はたして、ヤッコさんが選んだのは
案の定、うな丼だった。
これじゃ面白くも何ともないが、
今どき鯉こくを好んで食う奇特な人間は少ない。
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肝吸い・新香が付いてこれまた750円
photo by J.C.Okazawa
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素朴に旨そうな表情を持った、よいうな丼であった。
【本日の店舗紹介】
「まるます家」
東京都北区赤羽1-17-7
03-3901-1405
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