「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第785回
悲しい報せと驚きの奇遇

今日はまず最初に悲しい報せである。
といっても訃報ではないので
心安らかに読み進めていただきたい。

いなり寿司の名店が突如、閉店してしまった。
東上野の地にお狐さまの幟(のぼり)を
風になびかせていた「きつ音忠信」が
店をたたんでしまったのである。悲しむべし。
閉店の情報が舞い込んだのは、およそ一ヶ月前のこと。
中野区にお住まいのTサンから下記のメールをいただいた。

【6月21日閉店】きつ音忠信
いつも楽しく「食べる歓び」を拝見させて頂いております。
標記の件ですが、先日訪れた際に
お店に貼紙がしてありました。
店主に事情を伺ったところ、母親の看病の為、店をたたみ
実家のある田舎へ戻るとのことでした。
このお店が無くなってしまうのは非常に残念でなりません。

これは一大事とばかり、閉店3日前に駆けつけた。
ここのおいなりさんを愛する友人を誘い、
いなり3個・かんぴょう巻き半本・しそ巻き半本を
それぞれに緑茶でいただいた。


あとから来た単身の男性客はことごとく
丁重なお断りを入れられ、
失意の退店を余儀なくされている。
油揚げも酢めしも残りは電話注文分だけで
すでに底をついてしまったのである。
入店だろうがお持ち帰りだろうが
この日はわれわれが最後の客で、そのとき12時。

メールをくれたTサンによれば
店主ご夫婦は田舎に引っ込むとのこと。
お二人には大きなお世話ながら
もうちょいと事情を知りたくなるのも人情だ。
店内がわれわれだけになったとき、
おそるおそる声を掛けてみた。

するとお二人とも気さくに応じてくれて
店主の実家に帰り、親御さんの面倒を見ながら
ブロッコリー作りを手伝うとのこと。
この親御さん、ちゃっかりしたもので
二人の帰郷を見越して今年の種まきを増量したらしい。

故郷は何処かと訊ねると、何と小諸だというではないか。
こちらも長野の生まれ、
幼少のみぎりには小諸の懐古園を何回か訪れている。
懐古園というより園内の小さな動物園にいる
たった2〜3匹の白い満州豚がとても好きだったのだ。
最後に行ったのは昭和29年の春だったと思う。
赤いかりかり梅を刻み込んだおにぎりと
ハムの缶詰がその日の弁当だったことを覚えている。
母親が海苔嫌いだったのか、海苔をけちったのかは
知る由もないけれど、なぜか海苔ナシのおにぎり・・・。

何だかうれしくなって、会話が弾んだ。
「親父サン、懐古園に動物園があったでしょ?」
「ええ、あのタダで入れちゃうとこね」
「ボク、あそこにいた満州豚の仔豚が大好きでしてね」
「ええ〜っ! あの豚、実はうちの豚が父親なんだよ」
「ん???」
「うちの実家、三代前まで養豚場やってたんだが
 動物園の満州豚のオスのほうが役立たずで
 うちのが代わりに種付けしたの。
 だからアレは信州と満州の混血豚」
「何ですって! じゃ、ボクが見たのは
 親父サンとこの豚の仔どもじゃないですか!」

世の中、こんなこともあるんですなぁ。
初めてこの店の前を通ったとき、
霊感に打たれたような気がしたのは
混血仔豚の霊のお導きだったのだ。

よほど名乗り出てこの店を「庶ミシュラン」に
勝手に掲載してしまったことを
詫びようと思ったが、照れくさいから自重した。
この上は信州でのお二人の末永き幸せを祈るばかりである。
あの真ん丸いなりに出会えてJ.C.は幸せでした。

 
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2009年7月7日(火

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