第787回
観音裏の和食の佳店(その1)
観光客がめったに足を踏み入れない浅草寺の裏手、
通称・浅草観音裏は優良飲食店の宝庫である。
鮨も河豚も洋食も、銀座の半額とはいかずとも
ずいぶんと格安で真っ当なものが食べられる。
店舗が持ち家で家賃が掛からなかったり、
家族経営のおかげで人件費を切り詰められるからだ。
和食の「花櫚」を初めて訪れたのは4年半前。
界隈の顔役、O会長に案内されたのが最初だった。
カウンターに陣を取ってつまんだ酒肴の数々は
浅草らしからぬ洗練度を示して心に残るものがあった。
京料理ではないし、かといって江戸風でもない。
吟味された素材をあまり手を掛けずに
ストレートで出してくる、そんな感じの店だ。
ちなみに店名は「かりん」と読む。
果実の、あの花梨のことである。
しばらくご無沙汰していたが、久々に再訪。
この夜もくだんのO会長と席を隣りにした。
スーパードライでまずは乾杯。
最初にスッと出されたのは
蛍いかの沖漬とふぐの煮こごり。
読者は季節のズレを感じるかもしれないが
このときはまだ大型連休前。
来る日も来る日も外食していて
しかも1軒に2話、3話と費やすと、
どうしてもタイムラグが生じてしまう。
このあたりのことは大目に見ていただき、ご容赦を。
続いて刺盛りがきた。
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生とり貝・金目鯛・にしんのトリオ
photo by J.C.Okazawa
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今年は豊漁により、
良質のにしんがたくさん水揚げされたと聞く。
ビールのあとは芋焼酎の薩摩宝山に切り替えた。
宝山シリーズの廉価版は
いっとき事故米騒動に巻き込まれ、
とんだとばっちりをこうむった。
それでもなお、J.C.は平気で飲み続けていた。
敏感な方からは、お叱りを受けるかもしれないが
BSE騒ぎのときも同様で、こういうことには
それほど神経質にならない性格なのである。
刺盛りの次にも、まだ刺身が続く。
このあたり鮨屋の流れに近いともいえる。
真鯛の薄造りは紅葉おろしとポン酢で。
あおりいかの刺身はおろし生姜だが
半分生姜でやってから、おろしわさびを所望する。
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純白で白雪姫のようなあおりいか
photo by J.C.Okazawa
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いかでもあじでも、どちらかといえばわさびが好みだ。
続いてはやはり旬を迎えていた桜鱒の塩焼き。
このシーズンにはとても美味しいサカナで
この桜鱒が海に下らず、河川にとどまった陸封型が
山女魚(やまめ)ということになる。
山女魚も美味なるサカナで
人によっては鮎より珍重する向きがあるくらい。
この桜鱒には胡椒を利かせたキャベツ炒めが添えられた。
=つづく=
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