第802回
松本清張が棲んだ町(その2)
松本清張が永く棲んだ
杉並区・浜田山の中華料理店「しむら」を訪れ、
コリコリのくらげで生ビールをグイッとやった。
他の3人はほとんど興味を示さない、
というよりスナック「N」のママにいたっては
手も足も出ない皮蛋(ピータン)をJ.C.のために注文。
何となれば、このアヒルの玉子、
紹興酒とは切っても切れない間柄だからである。
そうこうしているうちに
温かい料理が次々と運ばれて来る。
まずはこれまた外せない大正海老のチリソース。
中国語で表記すると乾焼明蝦だ。
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大正海老のプリプリ感がこの料理の身上
photo by J.C.Okazawa
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杉並区内では下井草(最寄り駅は鷺宮)の
「皇蘭」と双璧を成す海老チリなのである。
この料理は海老の品質もさることながら
ソースが決め手で殊に長ねぎをケチッては駄目。
長ねぎをたっぷり使い、にんにくと生姜を利かせ、
ゆめゆめ片栗粉のトロみに頼ってはいけない。
お次は挽き肉と春雨の炒め煮。
N戸さんの指示により、いつも辛口仕上げでお願いする。
「しむら」の春雨を食べてしまうと、
まことに申し訳ないが
高見盛の谷町の手になる麻婆春雨には
食指がまったく動かなくなるのである。
紹興酒がすすみにすすみ、この辺りで焼き餃子。
点心系にも手を抜かず、高水準を保っている。
ここが町中華の名店たる所以、素直に素朴に美味しい。
そしてお待ちかねは好物の酢豚だ。
酢豚の豚肉はもとより、
シャキッとした野菜の比類なき旨さ。
ほどよい酸味の味付けも申し分ない。
紹興酒をたっぷりいただき、
いよいよ仕上げの麺・飯類。
実は春雨をお替わりしており、
4人ともお腹は相当にくちくなっている。
でも食べた。
それぞれに意地汚いから、意地でも食べた。
麺類からは担々麺を選ぶ。
通常は海老そばなどの塩味スープ系を注文するが
当夜はなぜか担々麺。
記憶はさだかでないものの、
今までに試していなかったからかもしれない。
ごはんモノはずっと以前に食べて以来、
しばらくご無沙汰していた五目炒飯だ。
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シンプルさが際立つ最強の炒飯
photo by J.C.Okazawa
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これが無条件で旨かった。
炒飯の原点がここにある。
かくして清張先生ゆかりの浜田山の夜は更けていった。
すると何かの話のはずみで先生のお孫さんが
この「しむら」でアルバイトをしていたことが判明。
そんなことってあるものかしら――。
こんなところにも松本清張の残像が! であった。
本当にびっくりしたな、もう!
【本日の店舗紹介】
「しむら」
東京都杉並区浜田山2-20-8
03-3302-3464
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