第804回
鮎が運んだ食べる歓び(その2)
第3回「下町を食べる会」の会場は
背後に清澄庭園の涼やかな森を控えた「天竜」。
店主の出身地は天竜川にほど近い長野県南部、
いわゆる南信である。
店名はふるさとの川に由来していた。
冷やし鉢まではずっと、
どちらかといえばあっさり系の料理が続いたので
この辺りで揚げ物の天ぷらである。
もっとも「天竜」の天ぷらは
下町特有の胡麻油がプ〜ンと香るタイプではない。
むしろ関西系に近いものだ。
コロモの色付きもこんな感じである。
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小鮎・きす・めごち・みょうがの天盛り
photo by J.C.Okazawa
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ここにも若鮎が入って一同の頬が一段とゆるむ。
鮎もさることながらこの季節の
きす・めごちは滋味を蓄えている。
穴子だってそうだし、いましばらく経つと
はぜが食膳に上るようになる。
夏は江戸前の小魚の旨い季節なのだ。
魚介のほかには夏の香りを運ぶみょうがのみ。
ご覧のように野菜がごちゃごちゃと入っていない。
精進揚げはお盆に食べればよいのだ。
店主は熱い天つゆも用意してくれたが
季節柄、塩でいただいたほうがさわやかな印象。
天ぷらを賞味している途中、
白ワインから芋焼酎にチェンジした。
出席者のみなさんそれぞれに
いつしかほろ酔い気分となり、
各テーブルの話に花が咲き始める。
適度なワイワイガヤガヤが耳に心地よい。
宴会たるもの、やっぱりこうでなくっちゃ。
さてさて、いよいよ本日のクライマックス。
塩焼き以上に楽しみにしていた
鮎の炊き込みごはんの登場だ。
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炊き込みごはん、ただいま蒸らし中
photo by J.C.Okazawa
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店主はその間にデザートの白桃をむいている。
土鍋の蓋をとった瞬間、店内に歓声がこだました。
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4人前の土鍋に4匹の鮎が
photo by J.C.Okazawa
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どうです? よだれがでるでしょ?
水茄子がつややかに光る新香も色鮮やかだ。
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水茄子・きゅうり・大根の新香
photo by J.C.Okazawa
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脇役にも手抜きは一切ない。
店主自らが炊き込みごはんを茶碗によそってくれる。
ほぐしたあとの鮎の頭と中骨もちゃんといただく。
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ごはんの一粒々々が立っている
photo by J.C.Okazawa
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おかげでめしのあとにも焼酎がすすむ
photo by J.C.Okazawa
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虎は死して皮を残し、
鮎は死して骨を残したのであった。
ここまでしゃぶり切れば、
鮎も正しく三途の川を泳いで
無事、成仏を果たしたことだろう。
ご馳走様でした。合掌。
【本日の店舗紹介】
「天竜」
東京都江東区清澄3-3-28
03-3630-8850
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