「一歩一歩、おいしさを探して」
J.C.オカザワの脚で綴ったダイアリー

第813回
小肌に始まった長い夜

食の月刊誌「めしとも」の取材で
錦糸町の「宇奈とと」に出向くことになった。
チェーン店のうな丼に期待はしないが
ミッションとあらば致し方ない。

それよりせっかく墨東まで遠征するのだから
手ぶらで帰って来るのもシャクだ。
思案投げ首のJ.C.がポンと膝を打ち、
訪れる気になったのは亀戸の「伊勢元酒場」。
なあ〜に、亀戸ならば錦糸町の一駅先だ。
行きがけの駄賃とばかり、意気揚々と乗り込んだ。

明治通り沿いなのに店の周辺はヤケにもの寂しい。
紺地に白く染め抜いた暖簾は
長い月日の風雨にさらされたせいか、
味はにじみ出ていても、どこかうらぶれている。
でも好きだなァ、こういう店。

きこしめした初老の常連が3人、赤い顔をしている。
人のよさそうな店主のオヤジさんが
物腰柔らかく応対している。
このオヤジさん、言葉遣いも丁寧で
何だか若いこちらが恐縮してしまう。
いえ、ちっとも若くはないが
先方はどう見ても古希を超えていて
当方がまだ若造という理論も成り立とう。

ビールの突き出しは焼き油揚げのおろし添え。
貧相でもタダのものに文句は言えない。
壁の品書きに小肌酢を見つけ、
360円という値付けにその品質をいぶかりながらも
好きなものは好きだから、意を決して注文に及ぶ。

絣模様も鯔背(いなせ)な小肌
photo by J.C.Okazawa

するとこれが予想外の上物で
酢の〆加減は浅めでも下手な鮨屋の上を行った。
値段が値段だけに粉わさびに
イチャモンをつける気は毛頭ない。

気をよくしながら追加のやまかけをお願いすると、
まぐろのブツ自体は悪くないのに
上から化調がパラリと振られているではないか。
可能な限り取り除いてから口元に運ぶ。
これだって380円だもんねェ。

次が控えているので、
まだ飲みたい気持ちを抑え、錦糸町へと足を向けた。
結果、「宇奈とと」のうなぎは手に負えず、
そのあと回った居酒屋「三四郎」の焼きとんも
以前に比べて魅力が薄れた。

失意のまま駅方面に戻る途中、
鼻腔をくすぐるカレーのよい匂いにふと見やると、
「カフェ東京 インドカレーの店」なる怪しげな立て看板。
再び、意を決して店内に踏み込んだ。
何やら風俗の雰囲気すら漂い、中はもっと怪しかった。
オーナーらしきインド人の男が
手づかみで賄いのカレーを食べている。
これがよい匂いの源泉だ。

どのみち乗りかかった舟、ビーフカレーをテイクアウト。
ところが帰宅して味見してみたら、これが望外の美味。
カルダモンが香りに香り、
そこいらのインド料理屋真っ青の出来映えだ。
いまだ再訪を果たしていないが
錦糸町に行ったら必ず寄るつもりでいる。
まったくもって店は見掛けによらぬもの、なのでした。


【本日の店舗紹介】
「伊勢元酒場」
 東京都江東区亀戸3-62-8
 03-3681-8058

 
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2009年8月14日(金)

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