第815回
大衆酒場 かくあるべし(その2)
都営新宿線・住吉駅そばの「山城屋酒場」を訪れたら
今度は南砂町にある分家に行きたくなった。
行きたくなったのだけれども場所が場所だけに
何かに背中を押してもらわないと
なかなか踏ん切りがつかないのだった。
どうせ彼の地に赴くのなら
いっそ都内に数ある「ナントカ銀座」の中でも
とりわけ活気に満ちた砂町銀座をぶらつこうかな、
などと思案をめぐらしていた折も折、
恰好のきっかけを掴むことができた。
二夜に渡って開催した
「下町を食べる会」の打ち合わせのため、
深川の「天竜」に出掛ける用ができたのである。
「天竜」から「山城屋」まで20分ほど歩く。
到着して何とも言えぬたたずまいに迎えられる。
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暖簾・看板・赤提灯のお出迎え
photo by J.C.Okazawa
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カウンターに落ち着いてさっそく生ビール。
目の前に貼りめぐらされた品書き札に目を通してゆく。
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料理担当の店主の姿が品書き越しに
photo by J.C.Okazawa
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念入りにチェックしたが
住吉にある本家の名物、トンカラが見当たらない。
その代わりというわけでもなかろうが
ポークソテーが目に入ってきた。
まずはかつおの刺身をお願いしておいて
ポークソテーを試すべきか、無視するべきか、
ちょいとしたハムレット的心境に陥りつつも
結局は注文に及んだのだった。
かつおはとても新鮮。
2切れほどつまんでいる間に
生ビールの中ジョッキがカラになる。
お次はホッピーだ。
ホッピーの赤提灯に迎えられたのだから
コイツをやらないと義理を欠くことになる。
ほどなくポークソテーが焼き上がる。
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トンカラとは似ても似つかぬソテー
photo by J.C.Okazawa
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豚ロースの全体を玉ねぎのケチャップ炒めが
おおいつくしている。
1切れ口元に運ぶと
ケチャップにはウスターソースが合わせられ、
玉ねぎの風味も溶け込んで
懐かしい味付けとなっている。
これならビールにもホッピーにもよく合うし、
ごはんのおかずにもうってつけだろう。
年配の酔漢の大声がやかましいが
下町の大衆酒場のこと、許す、許す、許しましょう。
ホッピーの中(焼酎)をお替わりして
なぜか気になったわさび漬を追加する。
あっという間に登場した皿を見て口をあんぐり。
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パックのまま現れたわさび漬
photo by J.C.Okazawa
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意表を衝かれて言葉を失った。
こういうのってアリなのかしら・・・。
半分ほど残ったわさび漬のパックを
ポリ袋に包んでもらい、苦笑しながら帰途につく。
こういう酒場があってもいいじゃないか。
いや、大衆酒場はかくあるべし、なのだ。
【本日の店舗紹介】
「山城屋酒場」
東京都江東区南砂1-6-8
03-3644-3098
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